宇宙ガラスの作り方 ~小さな宇宙を体験する~ / CIRCLE of DIY Vol.11
職人の繊細な手作業によってひとつひとつ生み出されるガラス細工。球体の中に作り上げれらた複雑な模様はまさに小宇宙です。今回、静岡県のガラス工房・ひだまりグラスに話を伺いました。
公開日 2017.02.20
更新日 2022.01.07
写真のガラス玉は、静岡のガラス細工職人であるひだまりグラスの畑山さんによるプロダクト。パイレックスと呼ばれる強化ガラスを高温の炎で溶かしながら手作業で制作していくため、同じ模様は世界に二つとありません。そして小さな球体の中に複雑な模様を落とし込むことを可能にするのは、卓越した技術があってこそ。そんなガラス玉がどのようにして誕生するのか、ものづくりのマイルールはいったいなんなのか、畑山さんへ取材を敢行しました。
今回、取材したひだまりグラスの畑山竜太朗さん。
写真の左側にあるバーナーから1500度以上の炎が噴出されます。
材料となるパイレックスと呼ばれる強化ガラスたち。
-ひだまりグラスについて教えて下さい。
「ひだまりグラスは工房名だったりブランド名でもあるんだけど、僕と妻が作り出すガラス玉の名前でもあります。パイレックスって呼ぶ人もいるんだけど、それは素材名だったりして、このガラス玉についての通称がないんですよ。僕らが作ったガラス玉にも商品名って特になくて…。ただその中でも、今回作った丸い球体のガラス玉には“元氣珠(げんきだま)”って名前をつけています」
-その由来を教えていただけますか?
「ガラスって、水に似ているんですよ。水の結晶に厳しい言葉を与えた時と、優しく語りかけた時で水の結晶に変化があるっていう話があって。科学的に本当に結晶が変わるのかどうかはわからないけど、ガラスもそれと一緒だって、ガラス玉の師匠に教わったんです。最初は意味がわからなかったんだけど、作れば作るほどにそれがわかってきて。自分が作る環境とか、精神状態だったりで、実際にガラス玉の模様や仕上がりにもちょっとした変化があるんですよ。だったら、漫画の『ドラゴンボール』に出てくる主人公の孫悟空が地球上のみんなから元気を集めた元気玉みたいに、そういう気持ちが込められた作品にしたかったんです。見た目も重要だけど、何が込められているかも重要で」
筒状のパイレックスへ、炎で溶けたパイレックスを使って模様のベースとなるラインを引いていきます。
少しずつチューブを使って空気を加えながら、筒状のパイレックスをねじり上げていきます。
スピードを左右の手でそれぞれ変えながら回転させています。一度に回転させすぎると模様に歪みなどが発生してしまうため、繊細な手仕事が求められます。
こちらが先ほど線を引いたパイレックスに回転と空気を加えた様子です。直線が螺旋になり、格子状の模様となりました。
その後、さらに回転などを加えた様子がこちら。正面から見ると、先ほどの格子模様が渦巻き模様へと変化しているのがわかります。
-今年で10周年を迎えましたが、ガラス細工との最初の出会いは?
「出会いは専門学生時代で、高円寺の高架下にあるお店でしたね。ショーケースの中に、ガラス玉がズラーッと並んでいて。すぐに“これを作ってみたい!”っていう気持ちになったんだけど、そのショップの人に当時は日本では作っている人はいないからアメリカで学ばなくちゃいけないって言われて、その時は断念したんです。それから社会に出る時に、自分がどういう生活をしたいかって考えたら、物を作りたい・やってみたい・研究してみたいという考えだったんです。その頃にようやく国内にガラス玉の作り方を教えてくれる人が現れたと聞いて、1週間ほど泊まり込みで教わりに行きました」
-ものづくりで大切なことは何でしょうか?
「大切なのはバランスでしょうか。作れての我も一つの要素ですが、強すぎるとバランスが崩れてしまいます。アーティストが作り上げた見た目の美しさも大切ですし、手にした方が想像する余白を残すことが大切です。ほかには偶然を大切にしていますね。仕上がった時に自分が想像していない模様といった偶然が巻き起こると妙に引き込まれます。偶然何かが起こるように、そういった意味の余白もイメージして制作しています。いい時もあれば、そうでない時もあって、その出来栄えの揺らめきが次のひらめきを呼んでくれるような気がしています」
こちらは先ほどの工程から進み、球体になる部分を筒状のパイレックスから切り離す際の様子です。高温の炎でパイレックスをカットします。
筒状のパイレックスから切り離した、球体の様子。先ほどの渦巻き模様が色づき、よりくっきりと存在感が感じられます。色がついた理由は溶かした金や銀をパイレックスへ吹き付けているため。それが化学反応を起こして、美しい色へ変化を遂げていきます。さらにここらから異なる表情へ変化していくことに。
その後も作業を繰り返した結果がこちら。先ほどの渦巻き模様は小さくなり、繊細さを帯びた表情に。絶妙なカラーグラデーションの美しさが映えます。
先ほどまで作業していたパイレックスとは異なる別の材料を使って、キラキラとした模様を作っていきます。こちらの素材はひだまりグラスを一緒に製作している、畑山さんの奥様が作られたもの。製作するパートを分けることで、異なるテイストを意図的に取り入れられるんだとか。
-ひだまりグラスについて簡潔に表すと何でしょうか?
「今日みたいに取材に来てもらった時に制作していると、その瞬間を閉じ込められる。だから、USBメモリーのような存在ですかね(笑)。空気とか会話、もっと言えば思い出を閉じ込めて作っているから、その日の記録とか記憶を閉じ込めるツールでもあるんです。これがあれば僕らが5年10年会わなくても、今日作った元氣珠を見ることでこの日のことを思い出せますよね」
さらに作業は続きます。先ほどの渦巻き模様に加えて新しい層を作るために、筒状のパイレックスを溶かして球体に重ねていきます。
渦巻き模様の層の重なる形で、透明のガラスの層ができました。模様のきめ細かさを引き立てるために必要な部分です。
渦巻き模様とキラキラとした模様が重なった様子がこちら。手前に透明の層を作ったことで、ガラス玉の中に立体感が生まれました。
模様と形が完成したら、ガラス玉を冷却していきます。急激に冷やすと割れてしまうため、緩やかに温度を下げるマシンの中へ。
-ひだまりグラスが11年目に入ることで何か新しい展開はありますか?
「技術が発展する中でやっぱり大量生産が増えてくるけど、全部がそうだと味気ないなぁって常日頃思っていて。スマホでSNSを開けば簡単にコミュニケーションが取れるのも同じで。そんな文字を書かなくなってきている中で知り合いからふと届いた手書きの残暑見舞いだったり、毎年の年賀状ってすごく嬉しいじゃないですか?そこで文字を書いて人に伝えることの大切さや良さを提案するために、ガラスペンを作ったんです。あとは1個ずつの違いを大切にしながら、ものとしっかり向き合って、ものづくりをしていきたいですね」
温度が下がったガラス玉がこちら。“元氣珠”と呼ばれる美しい球体のガラス玉はインテリアに重宝する。
別角度から見た様子がこちら。まるで夜空に漂うオーロラのような幻想的な風景が小さなガラス玉の中で作られています。
その時々に感じた思いが模様として表現される、ひだまりグラスのガラス玉。それはまさに壊れない限り半永久的に続く記憶のUSBメモリーでした。
ひだまりグラス / ITEM COLLECTION
まるで春に咲き乱れる花のような色鮮やかな花模様を何層にも重ねて表現したペンダントトップ。一つ一つ手作業で制作した繊細な表情は、世界に二つとないオンリーワンの出来栄え。¥6,500+TAX〜
畑山さんが“元氣珠”と呼ぶ美しい球体が特徴的なガラス玉。宇宙のビッグバンや銀河を連想させる、複雑ながらダイナミックな表情が特徴的な逸品です。存在感があるため、デスクやシェルフにインテリアとして飾りたいアイテム。¥20,000+TAX〜
こちらのペンダントトップは、“元氣珠”同様にガラスの中で模様が複雑に絡み合う表情が印象的。背景に黒を落としているため、より宇宙的で神秘的。¥5,000+TAX〜
PROFILE
ひだまりグラス
2006年よりスタートしたひだまりグラス。パイレックスと呼ばれる強化ガラスを高温の炎で溶かしながら、小さなガラスの中に神秘的な世界を立体的に表現したガラス玉を制作。ペンダントトップなどのアクセサリーを中心に、小皿や小瓶といったインテリア雑貨、照明なども制作しています。今年1月で設立10周年を迎え、11年目がスタート。紹介したアイテムはオンラインストアで購入可能です。
URL:http://hidamari-glass.com/
ONLINE:http://hidamari-glass.ocnk.net/
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