エイジングの魔法〜リメイク塗装作家中守生和〜/CIRCLE of DIY Vol.05
全国各地で発信されているDIYの文化を波及するべく始まった本連載“CIRCLE of DIY”では今回初めて“人物”にフィーチャーします。その記念すべき1回目を飾るのは独学でエイジング技術を習得し、アパレルショップの什器や小物、作家のための額縁などを手がけるリメイク塗装作家の中守生和さん。彼女の手法を追っていくと共に塗装の魅力に迫ってみました。
公開日 2016.06.24
更新日 2022.01.07
まず、エイジング塗装とはペンキや小道具を使用して錆びや傷などの経年変化を表現する方法として、DIYの認知度と共に広がってきた技術の1つです。そして実際にどう変化するのかを見るべく、中守さんが塗装するというデジタルマーケティングに関するコンサルティングを行う株式会社ルグランの現場に同行させてもらいました。
エイジングさせる扉がコチラ。
この1つ1つのパーツが様変わりしていきます。
そして塗装にあたって使う道具がこちら。塗料以外にもボンドや土、ヤスリなどの意外な材料や道具も使うんです。
それでは早速、工程を追っていきます。まずは養生からスタート。
他の箇所に付着しないようにビニールとテープでキレイに覆っていきます。
続いて水性木部着色剤(ボアーステイン)を水で薄めて試し塗りしながら色合いを確認します。
色合いが決まったら、ドアの木部に塗っていきます。
今回はチェスナットを使用。
二人掛かりでどんどん塗っていきます。
このドアノブにも変化を生む魔法が........。
金属パーツには建材などの塗装下塗りに使えるミッチャクロンを吹きかけます。こうすることによりプラスチック製品やクロムメッキ、ガラスなどの素材にも塗装ができるようになるんです。
続いて塗料を重ねていきます。ここではVIVID VANのバターミルクペイント(水性)、1326 Blackをスポンジと筆で塗っていきます。
乾きを待ちながら仕上げのイメージを高める中守さん。
そしてエイジングの醍醐味である意外な材料を使っての塗装に入ります。ボンドと肌色白土を混ぜ合わせて塗料を加えた、細かくザラザラとした質感のタイプ。
同じくボンドと消石灰を混ぜ合わせて塗料を加えた、細かくサラッとした質感のタイプ。この2種類を使い分けていきます。
この用意した塗料を錆びが一番出やすい金属パーツ周辺にヘラを使って塗っていきます。
この凹凸感がリアルなサビを表現しています。
続いて登場するのはアクリル絵具のANTIQUE GOLD、ANTIQUE BRONZE、GOLD LIGHT、赤墨とバターミルクペイントの2-2 Child’s Rocker Bright Red。
これを組み合わせながら、ドアの赤錆を表現していきます。
細部まで入念に加工を加えていきます。
ドアノブもみるみる変化していきます。
塗っては全体を見て、足りないところにどんどん足していくという工程の繰り返しです。
最後に、くもりガラス仕上げスプレーを吹きかけ、オリジナルで作成した社名のステッカーを設置したら完成です。
それでは中守さんが丁寧に仕上げたドアの全貌をご覧ください。
最初の状態を思い出すとその差は歴然。日本のオフィスというイメージを覆したヨーロッパの古き良き時代の工房のような雰囲気は何とも素敵です。そして細部まで表現したその奥深さに圧倒されてしまいました。
そこで、この技法を使いこなす中守さんにまず何故この活動を始めたのかを伺ってみました。 (次ページへ続く)
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「もともとは捨てられない和食器棚が家にあって、どうしようか悩んだ時に試しで塗ってみようと思ったんです。それから調べだして一気にハマっていきましたね。ただその時点では仕事になるとは思わなかったです。その棚を塗ってからは2年から2年半はとにかく家のモノをひたすら塗っていたら、家の中から塗るモノがなくなって(笑)。そうしていたら、たまたま日本画を描いてる友人が初めて個展をするという際にフレームを塗らせてくれないかという相談をしてやらせてもらったんです。そこで私がやっていることも周りの人に見てもらってから、お仕事として幅が広がっていきました。今は基本、外注として受けることが多いんですが、お客様によって頼まれ方も色々と違いますね。ブランドとかをやっているお客様だと、今シーズンはこういったイメージのコレクションなのでそれに合うようにしてほしいとか。逆に今回のこの場所のように全部任せてもらう形もありますね」。
意外なきっかけから始まったリメイク塗装作家としての活動。その肩書きも塗装はエイジングだけでなく、色々な可能性があるので1つに絞らないようにしているとのこと。
続いてこの塗装という手法の魅力について伺ってみました。
「塗る楽しさは“気分で変えられる”こと。モノ自体は同じだけど変化させることができる。例えば今日はピンク、明日は青みたいに。そうやって色を重ねて年季が入っていくと塗装が剥がれてくると、もしかたら10年前に塗った色が見えるかもしれない。っていう歴史を感じられるのが私は好きなんですよ。その塗った色ってその時にはあんまり気にしてないかもしれないけど、きっと思い出がのちのち積もって、それを思い返すきっかけにもなるから面白い。エイジングって年季を経たせているように見せる技術だけど、使っていくうちに年季は経っていくモノだから、そこに作っておいたエイジングにプラスされてより年季を味わえると思うんです」。
本来のエイジングに面白みを加えるための塗装という一手間。
面白みという点では塗る道具にもあるそうです。
「塗装の面白みって塗る=筆という概念を取っ払うことが1番大事だと思うんです。塗るモノは自分の手でもいいし、タオルでもいい。色々なモノで塗ることによって表情が違うので、それがエイジングっぽくなるんですよ。私も初めは固定概念があって塗る=筆って感じだったんですが、塗れば塗るほど求めてる質感が出なくて、道具を色々試していくと感覚がつかめてきました。ただキレイに塗る場合はもちろん筆やローラーを使うんですが、エイジングの場合はそうではないんで、何でも試してみるのが大事だと気付かされたんです」。
概念を覆すというところが何ともDIYに通じるところ。その塗るモノという上で中守さんが使う意外なアイテムとは。
「アルミホイルとサランラップでやってみた時は面白かったですね。塗るっていうより押すって感じなんですけど、ランダムな線が入るんですよ。それが錆びてきた時の筋に近づける。やっぱり考えながら塗ってしまうとキレイになってしまうんですよ。でも本来のエイジングしていくモノって、考えられてないけど、そうなる理由があると思うんです。例えばそこにずっと水がかかっているから、そこだけ錆びるとか。その時って上のほうがたまってるようだけど、実はその周りも錆びてきているっていう。それを人工的に出そうとすると変に揃ってしまうんで、自然なエイジングではなくなるんですよ。そういう意味でランダムな線が入るアルミホイルとサランラップを押すといい感じになるんです。だから方法として決まりはないですね」。
話を聞いてる中でもどういう風な仕上がりになるのか興味が湧く内容。ただ、この想像で終わってしまうのはもったいないので、やはり自分自身の手で試してみたいところ。
最後に今後やってみたいエイジングを聞いてみました。
「家電のエイジングはやってみたいんですよ。日本の白物家電にあまり愛着がもてないので、ちょっと手を加えてみたいなと思ったんです」。
確かに日本の家電はキレイで無機質なイメージが強いですよね。果たして中守さんの手にかかると、どうなるかは見てみたいところです。あとはエイジング塗装がどういうモノなのか気になる方は川崎駅前にある巨大なゲームセンター『ウェアハウス川崎』に行ってみるのもオススメですよ。香港の廃墟、九龍城を再現した内装は圧巻です。
そしてまずは手身近なモノの塗装から初めて、ぜひ塗る楽しさを肌身で感じてみてください。
PROFILE
中守生和
リメイク塗装作家。会社員を経て、独学でエイジング等の塗装技術を習得。現在、アパレルショップの什器や小物、店舗お壁面、アーティスト作品の展示に使う額縁などを手がける。
facebook:https://www.facebook.com/miwa.nakamori?fref=ts
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