石巻工房、震災の中立ち上がったDIYメーカー/CIRCLE of DIY Vol.03
全国各地で発信されているDIYの文化を波及するべく始まった本連載“CIRCLE of DIY”も第3章に突入。今回は宮城県石巻市に拠点を置き、“DIYとデザインの力で人と街を興す。世界初のDIYメーカー”として数々のプロダクトを生み出している『石巻工房』にフィーチャーします。宮城編の締めくくりとなる本章も、『café craft』や『analog』とはまた違った胸が熱くなるお話がきけました。
公開日 2016.05.05
更新日 2022.01.07
2011年3月11日に起こった東日本大震災。その出来事はここ石巻でも中心部を除いてほぼ全域を津波に襲われるなど、未曾有な被害を受けました。そしてこの震災の中で生まれたのが『石巻工房』。
追い込まれた環境下で人の助けを待つのはではなく、自分たちの手で直せるモノは直して復興するという行動がこのブランドの始まり。まずはその時の状況を、工房長を務める千葉さんに話を伺いました。
「震災後すぐは復興というか復旧すらままならない状況でした。でも、そんな電気も治らないうちに近所に住んでいたDIY好きのおやじが、ボランティアの手を借りて自分の居酒屋を直したんですよ。それを共同で代表を務める芦沢が目の当たりして、自分たちで作れば早いということと酒を飲むところがあればいいよねってことで復興BARという施設をまずDIYしたんです。流れてきた瓦礫から材料を拾って、だいたい3日間ぐらいで作っていました。大工さんもそんなに人数がいるわけではないんで、ほとんどの人が修理を待たざるおえない状況だったので、そういう場があると復旧早いじゃんっていう良いイメージを伝えることもできたんですよね。そうしていたら街にホームセンターみたいな工作室があったので、材料と道具と教える人がいればドアを直したいとか簡単な作業であれば待ってなくてもできたんです。その自分が出来ることはやれば早いじゃんという構想を作って、場所を確保して、友達などから道具を集めてきて、形を作る施設。それが石巻工房となりました」。
深刻な状況をネガティブではなく、ポジティブに捉えて生き抜いていくという考え方。そしてその考えを形にする行動力。まさにDIYと言える生き方。その後、施設がどのように進化をしていったのか。
「その年の夏に“ISHINOMAKI 2.0”という街づくりをする団体があって、彼らが企画して野外上映会をやるってなったんですよ。被災したビルの壁をスクリーンに見立てて、映写機を借りて、映画を見るって内容だったんですけど、その時に使う椅子を作ろうとなりました。地元の建築科に通う高校生を引き連れて40~50台作りましたね。それでひと段落して、この工房をいよいよどうするかとなった時に1つの出会いがあったんです。同年の秋に米国の家具メーカー、HermanMillerが復興支援のために隣町の女川に来ていたんですよ。その時には仮設住宅ができていたけども、ただの箱でしかなかったんで聞き取りをして、こういうのがあったら便利ということでスツールと縁台の2つを作ろうとなったんです。でもHermanMillerのほうでは拠点がなかったので、工房があるウチと一緒にやろうよとなった。その時にベンチとスツールと縁台を合わせて400ぐらい作りましたね。それぐらいから徐々にメディアで紹介してもらえるようになり、売ってないんですかという問い合わせが来るようになりました。その時はまだ売ってなかったんですが、もしかしたら売れるかもしれないと意識したのが12月ぐらい。場所も借りていたので、その代金ぐらい稼げればいいんじゃないかという気持ちでしたね。翌年の1月にはヤフーの復興支援サイトで売るようになりました。芦沢の中ではこれがビジネスモデルになればいいのではないかというイメージがあったらしいんですよ。復興っていうのもありますけど、その前に建築家やデザイナーが絡んでこういう形になって売れるのは面白いと。普段だと家具メーカーと話して商品が出来るって感じですが、もっとスピード感のある物があってもいいのではないかなと思ったらしいんです。そうやって薄々思っていたけどなかなか実行できないことが、注目を浴びるようになって売ることができたのはいい踏み出しの1歩となったんですよね。はじめは貰った材料が余っていたのでHermanMillerが作ったベンチとスツールと縁台だけを売っていました。そうしているうちに芦沢も仕事柄、多方面と繋がっているので別注の企画を頼まれるようになったんですよ。段々そういうことを続けてくると人も道具も増えてきて、クオリティもあがってきてという感じですね。初期の頃はサンダーもかけないで、切って組んで梱包材で巻いて発送していました。今思えば本当に乱暴な商品を売っていたなと思います(笑)」。
活動を続けていく上で形となり、それが商品となったことで施設から家具メーカーと形を変えました。そして裏話をすると千葉さんはまだこの時点で石巻工房の人ではないらしいんです。
「実は芦沢のクライアントだったお店をやってるのが私の同級生だったんですよ。自分も鮨屋だったので震災後は料理屋繋がりということで、その料亭で働かせてもらったんです。それまで芦沢とは会ったことはなかったんですが、それから顔を少しづつ合わせるようになって、野外上映会の時も覗きに行って手伝いに行っていたぐらいなんです。なので、自分自身もちょいちょい関わっていたというぐらいで石巻工房の工房で働いていたわけではなかったんですよ。だからHermanMillerが来た時もその料亭でご飯を提供する側。そうやっているうちに、芦沢の繋がりで建築をやっている色々な人たちが来るようになったんですよ。でも本業は東京にあるんで、みんなある程度したら帰っていく。そうなると場所と物はあるけど人がいないという状況になり、石巻で動ける人ということで自分がという感じでした。実家の鮨屋は全壊しましたけど、すぐにはやらなくていい状況だったのでフラフラしていたんですよ。その時によかったらやらないかと言われて工房長という名のバイトを始めました」。
意外な経歴から工房長へ。それをバイトと言ってしまうあたりがプロダクトと同じでユーモアを感じさせるところ。その心意気に反映されるように工房の雰囲気はとても和やかでした。家具メーカーとして立ち位置を変え、今では数多くのアイデアが形となっています。その中でも石巻工房と言えるこだわり、特徴を伺いました。
「石巻工房の商品でこだわりと言えるのは、まず規格材で誰でも出来るということですね。あと特殊な工具は使ってないんで本当にシンプル。実際のところ、状況から逆算するとそういう形にしかならないんですよ。だから、お願いするデザイナーにも最初に条件を言うんです。2×4の規格材でうちの工具はこれとこれだから高度な技術はできないし、精度もそこそこしかでないと。そのため大半のデザイナーは一度工房を見に来ますね。そこでワイワイしながら作業場を見つつ、自分でも作れて商品が出来上がっていく。そういう条件なので考えてもらった物はやはり誰でも作ろうと思えば作れるよねっていうモノ。だから真似してくださいっていう意味もあるんです。見て考えて、自分だったらここをこうするという発想で組み直してもらっていいんです。それを売らない限りは(笑)。なので、シンプルな商品が多い。あと同じことで言えるのはビスが見えるところ。今の家具業界だとビスを見せないことに価値があるという風潮なので、見せるのはある意味タブーなんです。でも、あえて石巻工房の商品ではビスを見せることをデザインとしています。タブーかもしれないけど見せちゃダメだっていう決まりはないし、見せることによって作りたいなと思う人の理解が早いんですよ。巧妙に組んでいたりすると、どこでビスを打ってるのかわからないから、私たちの狙うところと違うんですよね。あとは木の香りがするようにしています。今売っている家具って木材で出来ていても、ほとんどがウレタン塗料の香りなんですよ。キレイには見えるけれど、中に木があるだけで外はウレタン。実際に無垢の木で作られた家具があんまりないんです。だから買っていただいたお客さんの感想で多かったのが、ダンボールを開けた瞬間に木の香りがするでしたね。その素材においてはレッドシダーや杉を使うんですが、柔らかいし傷もつくので正直に言うと家具向きじゃないんですよ。あと無垢にこだわっているので、もちろん輪じみもあります。これを味と見るか、傷と見るかっていう差で好みがはっきり分かれますね。輪じみも1個あれば目立つけど、100個あれば目立たない。傷も見に来ていた人にこれが20年後には思い出になると伝えたら、そうですよねって共感してくれる人もいるんです。そうやって気に入ってくれたら嬉しいですね」。
無垢の温もりを生かしたシンプルデザイン。さらに家具=室内だけで使うモノという既成概念も壊してくれました。
「レッドシダーを使った理由に外で使うためだったんです。最初のHermanmillerと作った家具も8割、外で使うモノ。例えば椅子に座って外で話す時は、震災後の状況で言うと皆さんビールケースを持ってきて逆さにして座ってたりしてたらしいんですね。なので、当時作っていたスツールはそのビールケースの高さに合わせていました。また外で使うのを想定していたので、材料はレッドシダーなんですよ。日本でもウッドデッキによく使われる材料で腐りにくいし、黒くなって朽ちにくいのが特徴なんでうってつけだと思ったんです。5年から10年は無塗装の無垢状態でも大丈夫だし、メンテナンスすればさらにもちます。高価な家具は外で使いたくない、かといってホームセンターなどで安く買った物は半年もすれば壊れはじめる。だからその中間ぐらいを狙ってやってます。無垢であれば角が邪魔なら切り落としてくださいとか、ちょっと汚れてきたならペーパーかけてくださいとか、オイル塗って違う表情にしますかなど購入者した人が自由にアレンジできますよって提案できますし。そういう外で使い倒せて、無垢で遊べる家具は実はないんですよ。買ったらだいたいそこで終わりなんで。そういうところを自然とお客さんが石巻工房の特徴だと思ってくれたら、してやったり感はありますけどね(笑)」。
またプロダクト以外においても、気になるのがDIYメーカーという肩書き。果たしてこの狙いとは。
「はじめからDIYは謳っていたんですが、その言葉の起源として第二次世界大戦終わりのイギリスのスローガンだったらしいんですよ。それを聞いた時に、私たちの状況に似てるなと思ったんです。震災があってぐちゃぐちゃになった街を自分たちの手で復旧していこうというスローガンと。今では違う意味になってますが、石巻工房には合ってるなと思ったんですよ。街を作るって意味にも繋がるというDIYなんです。1つのビジネスモデルまで言ってしまうと烏滸がましいんですが、ある意味震災を機会に立ち上がった団体の中で生き残っているのは稀なほうなので。でも、復興商品というのは2012年夏以降には出してないんですよ。ストーリーとしては出していたんですが、その時から被災地石巻初みたいな文言をやめようとなりました。イメージとして復興が強すぎて、いまだにそういう商品だというと逆に大変なんですよ。実際にお客さんの中でも石巻工房=復興のための会社じゃないのって言われることが多いですし。なので、そこが強くならないように街家具ということで、儲けてるけど街に貢献してますよという感じにしています。あと単純に都会と地元の価値観とのギャップがあるんですよね。最初に作ったベンチは1万円で売っていたんですけど、これが東京だと無垢の材料を使ってこの値段は安いと言われる。でも地元になると3千円でも高いと言われる。だから都心のほうで高く売って、地元に還元したら遠回りだけど大きく言えば復興なんですよ。復興というのは経済活動が主になるわけなんで」。
街の名前をブランド名に掲げるだけに街との関わりは大切にしているとのこと。現在はプロダクトの作成の他にも、活動においてさらなる広がりが。
「現状、うちの内訳を言うと家具の売り上げって2割ないぐらいなんです。あとはほとんどがコントラクト事業なんですよ。よくいう会社さんの休憩室や会議室に工房の製品を使ったり、工房のテイストで作ったりしてくれないかっていう相談が多い。最近でいうと電通レイザーフィッシュさんの一角をウッドデッキ風に家具を配置して、休憩室の中にカフェを作ったんです。自分たちでやるカフェっていう内容、つまりは給湯室がオシャレになりましたみたいな感じですね。休み時間とか仕事終わりに、コーヒーをいれるのが好きな人がカウンターの中に入って仮マスターみたいな感じで振舞うらしいんです。面白い企画でしたね。もう一軒でいうと、とある事務所に中庭があったんですけど、たまにタバコ吸う人が使うぐらいでもったいないスペースになっていたんですよ。そこで、手すりに家具をくっつけてテーブルを作ったら、自然と外に出て仕事したり食事したりする人が増えたんです。こういう事業が最近は多くご相談もらっていますね。あとはワークショップが増えました。うちの商品って変な言い方をすれば未完成の家具。好きなようお客さんでやってくださいっていう感じなので、キットなんですかって言われるんですが違うんです。キットはキットでワークショップ用に何かあればいいねということで作っています。スツールをキット状態にして、始めは釘を使う仕様にしていました。やっぱりワークショップといったら日曜大工で、釘をトンカチで打ち込むって感じかなと思ったんですよ。でも、釘よりはビスを使ったほうが丈夫に作れるよっていう。その辺から始まってキットを作って、今はビスだけになっています。特殊な工具も必要ないんで、それは果たしてDIYなのかなと思う人もいるかもしれませんがレベルによるんです。本当に好きな人だったら木材買ってきて、切るところから始まると思うんですよ。このキットは切ってあって、下穴まで開いている。やったことがない人でちょっと作ってみたいとか小学生向けのワークショップだったら、このぐらい親切なキットのほうが喜ばれるんですよ。あとは逆に中級者向けの不親切キットを出そうと計画しています。パッケージの関係上、材料は切ってるけど下穴もないからビス打つ位置は自分で考えてねっていう不親切ぐあい。こちらは2、3割安く出そうっていう感じになっていますね。こういったキットを作ったりしてるんで、ワークショップは逆にうちにとっては商売にしているんです。モノ作りのワークショップはどうしたらいいのかって問い合わせも多いんでうちで承りますよっていう。年齢も大人から子供まで。石巻工房の素材を持っていって、例えば端材だけで何かを作ってもらうやつとか、スツールのキットを持って行って作ってもらうなどの内容になっています」。
キットに関してはスツールだけでなく、東北芸術工科大学東北復興支援機構TRSOと共同制作した“bento”があるんです。こちらは石巻工房の信念である自分で考え、作る、直すというのを子供にも感じてもらいたいという願いから作成されました。スツールと同じくドライバーや釘、金づちなどの身近な工具で作ることができ、設計図はないので作り方を想像しながら上手に組み合わせることでかわいい家具を作ることができるんです。子供向けとはいえ、大人でも十分に楽しめる内容は流石ですね。
きっかけはどうであれ、今では国内外から注目を集めるほどの進化を遂げた『石巻工房』。DIYを推進している同士として、今後の活動も引き続き注目していきたいところです。そしてモノ作りに興味を持っている方は、スツールのキットを買って、組み立てるのをDIYのはじめの1歩にしてみてはいかがでしょうか。また、石巻工房のプロダクトは素敵なモノばかりなので本当にオススメですよ。ぜひHPから見てみてください。
SHOP INFORMATION
石巻工房
住所:宮城県石巻市渡波字栄田164-3
電話番号:0225-25-4839
営業時間: 10:00〜18:00
定休日:土日祝日
オンラインストア:http://store.shopping.yahoo.co.jp/ishinomakilab/
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