島津が行く! 僕が恋した世界のゴミたち

廃段ボールを財布にアップサイクルするプロジェクト、「Carton」の運営者である島津冬樹氏。ユニークな段ボールを求めて世界中に出向いている彼は、他人ならば捨ててしまうようなアイテムまで持って帰ってきます。お土産代わりだけでなく、デザインのヒントがあったり、クリエイター魂をくすぐられたり、さまざまな効能があるとか。一見するとゴミでも、実は意味のあるコレクションの数々を、少しだけ拝見させていただきました。

2023.04.17

売っていないものとは二度と出会えない

欧米はもちろん、アジアやアフリカ諸国、中東など、約30カ国を旅した島津さん。行く先々でホームセンターやスーパーマーケットを訪問し、段ボールと日用品などの収集に努めてきました。 そして、コレクションするのは買えるものだけではありません。現地でしか手に入らない、今後出会える保証のないものなら、たとえ人にとってはゴミだとしてもバッグに仕舞います。「お店に並んでいるなら、焦らずとも再び入手する機会があるでしょう。でも、道端で配っているチラシ、風に舞う枯葉なんかは、その瞬間を逃したら二度と手に入りません。だから、意識して手に取りますし、記憶にも強く残ります。思い出記録媒体として優秀なんです」。オフィスには大量のコレクションが整理整頓されて並びますが、いつどこでどのようにして手に入れたのか、1つ1つ覚えているそうです。「かといって、なんでも持って帰るわけではないですよ。旅のシーンを思い出すのにわかりやすいものであったり、デザイン的に異文化感があったりしないとダメ。何かしらのインスピレーションを与えてくれないと欲しくなりません」。

ミャンマーで拾った"恐らく”宝クジ。文字がわからないため、数字と思しき記号の位置や並び方などから判断したそう。「文字がわからなくても、デザインから読み取る、想像するのが好きなんです。何を表現したいのか思考することは、デザイナーとしてトレーニングになるとも思っています」。

旅先から持って帰ったものは、メモ書きと一緒にアーカイブ化。「秋のバルセロナは落ち葉の量に圧倒されました。だから数枚を拾って保管。地下鉄のチケットも当然お土産にします」。

「日本のパスポートは強い! と言われていますが、イスラエルでは入国に3時間かかりました。直接ハンコを押すとイスラム圏に行く際、不便な場合があるからと、コピー取って処理するのも特殊」。印象深かったイスラエルの記憶が鮮明に。

異文化的要素がデザインの教材になる

チラシやパッケージなどの紙類は、島津さんが多く収集するジャンル。「日本にはない構成や色使いに興味があります。私が知る限り、デザインにはルール、セオリーが存在しますが、海外だと通用しないことがしばしば。特に段ボールは顕著なので面白いんです。あとは新聞や選挙ポスターなども、我々の常識とは違っていて刺激を受けます」。目についてしまえば、道に落ちているビラすら大切に。「現地の人にとって価値のない紙クズだって、僕から見れば新鮮。必ずデザインが落とし込まれて、何かしらクリエイティブのヒントが隠れていますから」。

「毒々しい配色が気になって拾ったメキシコの新聞です。今は少し色褪せてしまいましたが、もっと強烈だったんですよ」。

選挙のビラはモロッコにて。「両陣営が×マークを盛り込んでいて、どういう趣旨なのか考えるのが楽しい。もしかしたら否定とかNGではなく、肯定的に使っているかも知れませんし。文字が読めたら簡単に理解してしまい、逆につまらないでしょうね」。

香港で入手したお札のような一枚。「お葬式で故人の名前を書いて燃やすものと思われます。キョンシーっぽい雰囲気が心くすぐります」。

日本では手に入らないからこそ再利用したいゴミたち

海外の市場やスーパーマーケット付近では、ビニールテープやリボン、ロープなど、梱包に使っていたであろうゴミがたくさん落ちています。「日本では見かけない、ヴィヴィッドな色が多い気がします。一期一会ですからね、ピンと来たら迷わずゲット。その時は何に使うか謎でも、いつか役に立つと信じて連れ帰ります」。実際、多くがゴミのままでは終わらず、作品の材料になるようです。

南アフリカの市場的なスポットで拾った、オレンジ色のナイロンネット。「なんの目的もなしに入手しましたが、今は箱の上にトランポリン状に張り、展示什器として活用しています」。

鮮やかなブルーが気に入ったナイロンテープは、南アにて拾得。「発色がいいので使えそうだなと。帰国後、早速ウォレットのパーツにしました」。

フィリピンから持ち帰ったグッズを、インドネシア産の段ボールで作ったボックスに。「本当は産地を統一したかったんですけど、フィリピンで素敵な段ボールが見つけられなかったので」。

ゴミが旅を細部を思い出すカギに

「お金を払って手に入れたアイテムだけでは、旅のメモリーバックアップが不完全。ホテルで渡されたメモや、立ち寄ったファストフード店の紙ナプキンといった、普通であればとても保存する気にならない無料の品々があってこそ万全に」。サイズ的には軽くて小さいものでも、場所やタイミングが強く刷り込まれ、現地の記憶を的確に補完してくれるのだそう。「写真が簡単に撮れる時代になりましたが、やっぱり現物にはかなわないんです」。

泊まったホテルの記憶を呼び起こすのに有用なのが、wi-fiのPASSが書かれた紙。「ルームキーを持って帰るわけにいきませんからね。数センチ角のメモでも保管します」

アメリカといえばハンバーガーショップ。「シェイクカップからケチャップ、包み紙までテイクアウト。味や雰囲気をしっかり記憶できますよ。僕の好みはウェンディーズですね」。

デザインを学んだ人の多くが、航空会社グッズのファン。「非常にレベルの高いプロダクトが多いんです。エチケット袋までカバンに入れてしまう人はあまりいないでしょうが」。

「世界を歩くと、改めて日本はキレイ好きな国だと感じます。モロッコのように選挙期間中にビラが撒かれることも、ドイツみたいにラミネートされたチラシが落ちていることもない。飼い主の意識が高いのか、日本では犬のフンもほとんど見かけませんよね」。よかれ悪かれ極端に画一化された環境では、島津さんのハートを刺激するにはパンチ不足なのかも知れません。「日本はデザイン先進国の一角ではありますが、ちょっとカッチリし過ぎかも」。だから、彼は国外へ飛び出し、自由な発想で吸収を図っているわけです。みんなからはゴミに見えても、自分にとってはアイデアの泉。マイペースだけど強い意志を持ったライフスタイル。ぜひ見習いたいものです。「エチオピアからコーヒーの袋を持って帰ってきたときは、麻薬の運び屋と勘違いされましたけどね」。

チェコはプラハ中の電信柱に掛かっている、ペット用フン処理セット。「無料の紙製スコップと袋がいたる所に。犬猫にも優しい街であり、そうでもしないと持って帰らない国民性なのかなと」。

島津さんに密着したドキュメンタリー映画『旅するダンボール』公開間近!

世界30カ国の街角で捨てられた段ボールを拾って、かわいくてカッコいい段ボール財布に。<不要なものから大切なもの>を生み出す、いま世界からもっとも注目の<段ボールアーティスト>島津冬樹の活動に迫ったドキュメンタリー映画。あなただけの大切なもので、未来を支えるアップサイクル
12月7日より
YEBISU GARDEN CINEMA/新宿ピカデリー
MOVIX仙台、MOVIX橋本、ミッドランドスクエア シネマ、MOVIX京都、神戸国際松 竹ほか 全国順次公開

島津冬樹(段ボールアーティスト)

1987年、神奈川県生まれ。多摩美術大学情報デザイン学科卒業後、大手広告代理店を経て2015年よりアーテイストに。「不要なものから大切なものへ」と掲げ、放置されている段ボールから財布を作るプロジェクト「Carton」立ち上げ。段ボールを集めるために巡った国は30以上。展示やワークショップも国内外問わず、多数開催している。

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