UPCYCLE OUR LIFE Vol.4 “不良のおじさん”に憧れて。3D造形ユニット「GELCHOP」の秘密基地に潜入!

ライフスタイルショップ「IDÉE」が取り組むアップサイクルをテーマにしたプロジェクト「IDÉE GARAGE」がこのたび、本格始動。この連載では、全5回にわたってIDÉEの取り組みを紹介していきます。第4弾となる今回の取材では、プロジェクトに参加するクリエイターGELCHOP(ゲルチョップ)のアトリエを訪ねます。

公開日 2017.01.24

更新日 2022.01.07

UPCYCLE OUR LIFE Vol.4 “不良のおじさん”に憧れて。3D造形ユニット「GELCHOP」の秘密基地に潜入!

GELCHOP(ゲルチョップ)アトリエにて

3D造形ユニット「GELCHOP」のモリカワ リョウタさん(左)と、オザワ テツヤさん(右)。一見コワオモテのお二人ですが、話してみると意外な素顔も…?

 

「愛着のあるモノと長く付き合う暮らし」を提案するライフスタイルショップ「IDÉE」が、アップサイクルとDIYをテーマに展開するプロジェクト「IDÉE GARAGE」。

 

前々回のBouillon(ブイヨン)、前回の狩野佑真さんに引き続き、今回はこのプロジェクトに外部クリエイターとして参加するGELCHOPのインタビューをお届け。

 

ところで、“GELCHOP”といえば……そう、DIY好きであればご存知の方も多いはず。数々のショップのインテリアデザインや什器、商業施設のオブジェ製作などで多岐に活躍するほか、過去には、DIYer(s)の新オフィスの家具デザインをお願いするなど、編集部が最も敬愛するクリエイターであるお二人。そんな、“DIY界の大先輩”を訪ねて、埼玉県の某所にあるアトリエへと一路、車を飛ばしたのでした。

 

お二人が“工場”と呼んでいるアトリエ。さまざまな素材やDIY道具、制作途中のプロダクトや奇妙な形をしたオブジェなどが所狭しと置かれ、まるで秘密基地のような雰囲気。

 

-まずはベタな質問で恐縮ですが、お二人の役割分担を教えてください。

モリカワ レスキュー(編集部注:オザワさんの愛称)が工場長で…、俺はなんだろう。簡単に言うと、外で色々な決め事をするのが自分の役目で、それを二人で話し合って「実際にどう作るのか」を具体的にしていくようなイメージですね。

 

-お二人の最初の出会いは?

オザワ 大学が一緒ってことかな。といっても学年も科も違ったから、当時は顔を知っている程度でしたけど。

 

モリカワ  「おっかないヒゲの人がいるな」と思って(笑)。

 

オザワ モリカワは彫刻科で、自分はグラフィックデザイン科だったんです。ただ、グラフィックといっても今みたいにパソコンを授業で使えるわけではなかったから、かなりアナログ。最近の若い人たちはもう、「写植」ってあまり知らないよね。文字もすべてワープロで打ちこんでから切り貼りしてたの。そんな時代でしたね。

 

モリカワ 会計士の事務所でそろばんはじいているようなものだよね。

 

-現在のデザイン作業はパソコンで設計されているのですか?

モリカワ 自分たちで作る時は、設計というほどのことはやらないですね。鉛筆でスケッチを描いて、あとはイメージを共有してカタチにして行く感じ。場合によってはモノを前にして言葉だけの時もある。

 

オザワ “現物合わせ”ってやつです。

 

モリカワ そう、現物合わせ。自分らの中で完結する作業であれば、そのほうがよっぽど正確。3次元の話はアナログのほうが速い。

 

▼GELCHOPの作品

雑誌「POPEYE」での連載や「無印良品」での展示、「BEAMS」「sacai」など有名アパレルブランドのショップを手掛けるなど、幅広い活動で知られるGELCHOP。見るだけで思わずニヤリとしてしまう、ユーモアに溢れた発想の源はどこにあるのか、聞いてみた。

 

-もともと立体の造形に興味があった?

モリカワ いわゆる古典的な彫刻とかそういうものにはまったく興味がなかった。10代に、現代アートに触れていたのが大きいと思う、わかりやすいところでは大竹伸朗さんとか。“不良のおじさん”というか、一般的な常識の中で生活していない芸術家が、自分なりの角度で表現したモノで社会とコンタクトして生活してるのがカッコよく見えたんだよね。

 

オザワ 当時は、生きている方法なんてなんでもアリと思ってた。

 

モリカワ もちろん今でこそ、古典的な彫刻を見て素敵と思うことはあるけれど、その頃はもっと“なんでもアリ”なやんちゃな世界に憧れを持っていた気がします。

 

オザワ だから、同級生が立派に就職先を決めていくのを横目に、趣味のバイクを改造したり、のらりくらりとやりすごして(笑)。戦略なんてものはまったく持ってなかったし、あるのは不良中学生みたいな反発心だけ。

 

モリカワ 今の人もそうだと思うけど、アーティストやクリエイターを目指すなら、例えば賞を狙うとか、自分の作ったものがちゃんと世の中に出て行って、大きなロットで作られていくっていう道筋を考えるでしょう。でも、当時の自分らの方向性は完全に逆だもん(笑)。“小さなロットでいいから自分たちで出来る範囲で、自由な立場で、どれだけ面白いものを作っていけるか”、そんなことばかり考えてました。

 

「とにかく、常にイレギュラーな存在でいたい」とモリカワさん。表情は相変わらずシブいですが、物腰はとてもやわらか。

 

FRP(強化繊維プラスチック)は、GELCHOPが得意とする素材の一つ。こちらはその製作途中。

 

-ちなみに、ゲルチョップという名前の由来は?

オザワ これはちょっと専門的な話になるんですけど、FRPを使う人たちが材料を呼ぶ時に、樹脂の粘度を高めたモノをゲル、ガラス繊維を切ったものをチョップ材と言うんです。その樹脂と繊維を合わせるとゲルチョップになって、作業工程では強化剤にもなるんだけど、そんなのはどうでも良くて…。

 

モリカワ まあ、響きが良かったというだけです。「アエロジル」って材料があって、略して「エロジル」という選択肢もあったけれど、それはさすがにね……(笑)。

 

-確かに、あまり一般ウケはしなさそうですね(笑)。では、当時からFRPに興味が?

モリカワ もともと、FRP専門でやりたいわけではなかったけれど、素材としてはかなり特化していて、どんなカタチでも自由に作れるから「樹脂で変わったものを形にしたい」という話をいただくケースが多くなって、昔はなんとなく“FRPの人たち”って思われていたのかもしれない。

 

オザワ カタチになったものをみるとなんてことなく見えるけど、意外と手間のかかる素材なんですけどね(苦笑)。

 

モリカワ FRPは型で作るのが基本なんだけど、科学実験みたいなところがあるから、最初のうちは樹脂が上手く固まらないとかものすごく失敗するわけ。ただし、大きな工具や設備はいらないから、DIY素材としてはかなり画期的とも言える。型でモノを作るのも面白くて、僕は一時期、自分の体じゅう型を取って遊んでた。いつかDIYer(s)さんでも挑戦してみたらいいと思いますよ(笑)。

 

2009年からスタートしたカスタムペインター倉科昌高氏とのプロジェクト「D.I.Y. DEPT」。ホームセンターで売られているモノを材料に、両クリエイターがDIY精神に基づきカスタムメイドで1点物に仕上げる。

 

-そもそも、お二人とも昔から自分で手を動かすことが好きだったんですか?

モリカワ そうですね。子どもの頃に“働いているかっこいい大人”といえば、家に来る大工や庭師のおじさんでした。毎日少しずつカタチになる様子を見てしびれてましたね。あと、なんでも作っちゃうじいさん。肌着の胸元に靴下を縫い付けてポケットにしたりして、お茶目でしょ(笑)。そんな大人をまねして、遊び道具やイタズラの仕掛けを作って遊んでた。

 

オザワ 僕も、家に来た大工さんに釘を打たせてもらったり、機械を見ればバラしてた。自転車を直してるお父さんとかも近所に必ずいましたし。一昔前は、家でモノを作ることなんて当たり前の時代だったんですよ。

 

-同じような体験談を、IDÉE GARAGEの発起人でもある磯野さんも仰っていました。お二人は、2013年の夏に藤沢で行われたIDÉE GARAGEのイベントにも参加されていたそうですね。

オザワ はい。僕らが困ったものしか作らないことを一応“アップサイクル”と認識していただいたみたいで(笑)。イベント中はアップサイクルのワークショップをやって、「無印良品」のB品や廃材を使ったハイブリッドの椅子や照明を何点か作らせてもらいました。

 

これがその時に作られたアイテム。DIYによって生まれた商品はその場で販売もされた。

 

-そして今回、3年ぶりのGARAGEプロジェクトでは3点の作品を制作されています。一緒にプロジェクトへ参加したBouillonのお二人、狩野佑真さんと同じく、実際に産廃業者に足を運んで材料選びからはじめられたそうで。

モリカワ それもなかなか難しい課題でしたね。いつもなら「便座で椅子を作る」とか、最初に製作するメニューを決めてから素材を探します。「この中にあるもので何か」という考え方はあまりしないので。

 

オザワ モノベースでやることもできるけれど、何でも形にはできちゃうでしょ。

 

モリカワ 「この素材があるからテーブルにする?」という考えだと、わりと簡単でつまらなくなってしまいがち。自分たちにとっては、“無理やり組み合わせる”とか“強引に機能させる”ほうがクリエイティブな作業だから。常日頃から、技術の無駄遣いを心掛けてます(笑)。

 

テトラパックの再生素材“テトミックスボード”で作ったロングテーブル「Milk Pack Table」。中央には廃材のポリタンクが埋め込まれ、オリーブの木が植えられている。

 

2×4材を差し込むだけで組み立てられるプラスチックのベンチソケットにアンティーク家具の廃材を組み合わせたベンチ「Antique 2×4 Bench」。

 

工事現場で使う一輪車、通称“ネコ”をトランスフォームして椅子に改造した「While Barrow Chair」。内側はお尻にやさしいクッション&クロス張り。人の運搬も可能とのこと。

 

-見た目もユニークな「While Barrow Chair」ですが、腰を下ろしてみるとなかなか快適な座り心地でした。

モリカワ 実際、工事現場で“ネコ”に座っている人を見かけることがあるんだけど、今回は地味な加工を加えて、より座りやすくアップサイクルしてあります(笑)。通常、運ぶことを一番に考えて作ってあるものを、座ることを一番に考え直して作りました。骨組みを切ったり伸ばしたりしてね。

 

オザワ それこそ、現物合わせですよ。

 

加工が完璧すぎて、通常の“ネコ”との違いが一見わからないほど。一つ上の写真とは車輪の位置やフレームの形状が違うのは、廃品なので同じものが複数手に入らなかったから。まさに現物合わせで仕上げられている。

 

モリカワ バケット部分もスチールのままだと冷たいからクッション材を張ってあります。これは近所のおじさんにやってもらいました。レスキューが昔住んでた家の下に作業場を持っている張り物職人さんなんですけど、もう70歳くらいになるかな。型紙が難しいから普通の人は嫌がる作業も「面白そうだからやりたい」と言ってくれて。

 

-さすがの職人技ですね。

モリカワ 今回みたいに誰が使うかわからない状況の時はいろいろと気を使いますよね。もし、この椅子にバッチリきめたマダムが座ったら……とか考えると、見た目とは違って、しっかり座り心地のいいイスにしておかなきゃ、とかね。本気でイタズラしてることに気付いてもらわないと(笑)。結果、意識や景色が変化するようなモノが作れたらやっぱり楽しいと思うわけです。

 

-見る側からしても、きちんと使用目的がわかっていると、「欲しい」という気持ちも起こりますよね。

モリカワ 日常目にする生活道具って、たくさんの人に購入して貰えるように考えているでしょ、当たり前だけど。便利とか安いとか、お洒落とか高級とか、何となく一定の方向性で考えられたものばかり。だから、他と違う価値観や考え方に触れるとすごくうれしくなる。現状に何となく満足できないところがあるならば、それを変えるアイデアで生活を一変して楽しむ。それこそがアップサイクルの意味でもあるはず。そこに欲しいって気持ちが起こらないと“サイクリング”しないもんね(笑)。

 

二人が信頼する張り物屋職人に依頼した、別の作品がこちら。高級ソファなどで使われるボタン止めの技術をなんと“ブルーシート”で再現し、一軒の小屋を建てた。新宿にある「BEAMS JAPAN」4階のTOKYO CULTuART by BEAMSにてディスプレイ中。

 

次回は、ついに生まれ変わったIDÉE CAFE PARCの全貌をご紹介します!

 

PROFILE

GELCHOP(ゲルチョップ)

2000年に結成。モリカワ リョウタ、オザワ テツヤ、タカハシ リョウヘイ、3人の工作好きによって活動を続ける3D造形グループ。ハンドワークで、イメージと現実の世界をつなぐ、立体というカテゴリーのもと、多岐に渡って活動。パブリックスペースのアートワーク、オリジナルプロダクト、はたまた、玩具、農作物、車、建築、エネルギー、コミュニティーにいたるまで、”つくる”ということを”D.I.Y.”精神をもって探り、手を汚す日々を過ごす。http://gelchop.com/

 

INFORMATION

IDÉE SHOP Midtown

東京都港区赤坂9-7-4 D-0316

東京ミッドタウン Galleria 3F

11:00~21:00

Tel.03-5413-3455

http://www.idee.co.jp/

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