新たな形で受け継ぐ、記憶の痕跡。注目デザイナー“狩野佑真”を訪ねて、造船所へ。【UPCYCLE OUR LIFE Vol.3】
ライフスタイルショップ「IDÉE」が取り組むアップサイクルをテーマにしたプロジェクト「IDÉE GARAGE」がこのたび、本格始動。この連載では、全5回にわたってIDÉEの取り組みを紹介していきます。第3弾となる今回は、プロジェクトに参加するクリエイター狩野佑真さんのインタビューをお届け。 Text_瀬尾麻美
公開日 2016.12.14
更新日 2022.01.07
川崎市の造船所に事務所兼アトリエを構えるデザイナー、狩野佑真さん。
「愛着のあるモノと長く付き合う暮らし」を提案するライフスタイルショップ「IDÉE」が、アップサイクルとDIYをテーマに展開するプロジェクト「IDÉE GARAGE」。
今回はこのプロジェクトに外部クリエイターとして参加する狩野佑真さんのアトリエを訪ね、お話を伺うことに。案内されたのは川崎市にある、とある造船所。「デザインと造船になんの関係が⁉」と、思わず妄想を膨らませてしまいますが、まずは狩野さんのこれまでの経歴と、過去の作品を少しだけご紹介。
▼狩野佑真さんの作品
「On Bicycle Stand|自転車の自転車スタンド」(2016)
街中や駐輪場で自転車が乱雑に置かれると、歩行者の通行の妨げや景観の乱れを引き起こす。その問題を解決するためにデザインされたのが、この自転車型の自転車スタンド。街中で目にした時に、誰もが駐輪スペースだと気づけるサイン計画も兼ね備えた作品。2016年のグッドデザイン賞を受賞。
「50m Chair」(2011)
まるで1本のホースだけで構成されているかのような椅子は、椅子部分と周りのホースにそれぞれ25m、合計50mのホースを使用して作られている。椅子の形をしたホースなのか、あるいはホースの形をした椅子なのか。それぞれの曖昧な関係性から機能と形の関係性を考え直すきっかけをつくるインスタレーション。実際に座ることも可能。
「Drink Coin」(2016)
ワイングラスやマグカップなどのガラス食器の形をした貯金箱。すべて本物のガラスで製作されているため、食器を落として割ってしまうように、割れた時にはじめてお金を取り出すことができる。
「Lightbulb Vase|電球の一輪挿し」(2012)
近年、徐々に消えつつある白熱電球。この作品では使用済みの電球を集め、穴を開けるという最小限のデザインで、ただ捨てられるだけとなってしまったものを蘇らせた。電球にとっても大きな役割であったフィラメントが、花瓶に姿を変えてからは花を支える大きな役割を担っている。
―まさか、造船所でデザイナーさんのインタビューをするとは思いませんでした(笑)。狩野さんは大学時代、室内建築専攻でファニチャー(家具)を専門にされていたそうですが?
狩野 はい。家具といっても、高度な木工技術を学んでいたわけではなくて、理論のほうですね。「インテリア」と「建築」という選択肢もあったのですが、自分にはあまり現実味がなくて。家具やプロダクトであれば、材料を揃えるだけである程度は自分の手で作れるし、より身近だと思ったんです。
―その頃からデザイナーになりたかった?
狩野 大学生の時は、アーティストを目指していました。なので、大学卒業後も1年間はアーティストのアシスタントをさせてもらっていて。ただ、そこでいろいろな経験を重ねるうちに「自分にはデザイナーの肩書きのほうがしっくりくるな」と思い直しました。アートの世界だと、1つの作品が完成すれば満足できるけれど、デザインの場合は量産のためにはどうすればいいかとか、実際に使った時の機能性もしっかりと考える必要がある。そういう細かい部分のことまで考えながらデザインすることのほうが自分は好きなんだ、と気づいたんです。そこで、今みたいなプロダクトデザインを手掛けるようになりました。
狩野さんの大学時代の卒業制作、「Between the Space|空間と空間の間」(2011)。
実際に使われていた21枚のドアを使ったインスタレーションは、さまざまな空間をつなぐドアを「開ける」という行為を通して、私たちに時の循環を体感させてくれる。
―この作品に“ドア”を選んだ理由は?
狩野 きっかけは、ちょうど卒業制作のタイミングで実家が引っ越しをして、それが自分の中では割とショックな出来事だったんですよ。子どもの頃から住み慣れた愛着のある家だったし、モノもたくさん処分しないといけなかったり。そこで、自分でも何か残せないかと思って、実家からドアだけを持ってきて作品として仕上げたんです。なので、一枚のドアだけはもともと僕の実家にあったもので、残りの20枚はどこかの家で実際に使われていた廃棄品のドアを使っています。
―この頃から、素材そのものに興味を持ち始めた?
狩野 そうかもしれません。誰かが使っていたもののほうが、何かの痕跡があるというか、それを想像しながら新しい形を考えるのが面白かったりして。そこから、廃棄品のドアだったり、引き出しなんかを集めるようになりました。
狩野さんのアトリエには作品の試作品から素材のストック、何やら不思議な形をしたオブジェまで、棚の上にずらりと並べられています。
これらは一体…?
―そして、2014年からは、「Dr.Furniture」という自主プロジェクトを始動させています。これは、具体的にはどのような活動なのでしょうか?
狩野 昔から、家具が粗大ごみとして捨てられている光景をよく目にするのですが、よく見ると、一部分だけが壊れているものだったり、単にデザインが古いからという理由で捨てられているものがほとんどなんですよね。そこで、壊れている家具のまだ使える部分だけを抽出し、新たな価値を与える“家具の再生”ということを考えるようになりました。それも普通に作るだけだと面白くないので、自分が医者になったつもりで白衣を着て…。
―いわゆるコスプレですね(笑)。
狩野 そうです(笑)。このプロジェクトはスタートして2年ほどが経つのですが、今までに十数点もの家具を再生させてきました。
「Dr.Funiture No.01-06」(2014~)
聴診器を工具に持ち替えた「Dr.Funiture」の治療により、死に逝く運命にあった患者(家具)は、新しい価値を与えられて生き延びることができる。
―そして、この「Dr.Funituree」プロジェクトが今回の「IDÉE GARAGE」にもつながってくるわけですね。
狩野 ええ。実際、この作品がきっかけで声を掛けていただきました。もともと僕自身も、「Dr.Funiture」の活動を通して、廃棄される家具の問題には思うところがいろいろとあったので、ぜひにと参加させていただいて。そこで製作したのが、「フランケンシュタイン チェア」と「引き出しの椅子」です。
「Frankenstein’s Chair|フランケンシュタイン チェア」(2016)
廃棄された椅子や、販売することが出来ないB品の椅子のそれぞれ使える部分を抽出してフランケンシュタインのように繋ぎ合わせることで、様々な要素が混じり合った新たな価値を持つ椅子に生まれ変わった。白いフレームも含め全て廃材で出来ている。
IDÉE SHOP Midtown内のカフェで実際に使われています。
「Drawer Chair|引き出しの椅子」(2016)
廃棄された家具の「引出し」に外枠と背もたれを取り付け、椅子にリデザイン。引出しの種類によって必然的にサイズが決まり、大きい物はベンチにもなる。
引き出し本来の機能はそのまま。
―まずは「フランケンシュタイン チェア」について。こちらは、複数の椅子を組み合わせているそうですが。
狩野 はい。それぞれB品の椅子と廃棄品を組み合わせています。
―まるでパズルみたいに綺麗にハマっていますよね。
狩野 そうなんです。全部偶然というか、高さもぴったり合ったのには驚きました。ただし、白いフレーム以外の脚は実は全部数ミリ浮かせて摩擦を最低限にするなど、使い心地や機能性も計算しています。
―「引き出しの椅子」は、すっきりとした見た目がシンプルで素敵ですね。
狩野 ありがとうございます。むしろ、作るのはこちらのほうが難しかったです。引き出しが分厚いぶん、フォルムが不格好になりやすくて。試行錯誤した結果、引き出しの下から脚を生やすよりも、地面から座面まで一直線にデザインしたほうがスマートに見えるということに気が付きました。あと、座面のサイズはバラバラなのですが、高さを均一にすることで統一感も持たせています。
―この引き出しは、どこで見つけてきたのですか?
狩野 これは全部、僕のストックですね。学生時代から細々と集めていたものが、ようやく日の目を見る機会をいただきました(笑)。
―引き出しだけを見ても、しっかりとした作りなのがわかります。
狩野 そうなんです。廃棄品を探していると、意外と綺麗なものや、立派なものが捨てられていることに気づいたんです。モノ自体はとても質が高いのに、一部が壊れているというだけで捨てられてしまう。壊れていれば直せばいいだけの話なのですが、今はその選択肢もどんどん失われてしまっているような気がします。ファストファッションと同じです。
―特に家具はモノ自体が大きいぶん、慎重にならないといけないはずなのに。
狩野 「ここ数年だけ使えればいいや」と愛着のない家具を買って、雑に扱っていれば、やっぱり生活は豊かになりません。逆に、いいものであればメンテナンスをするだけで代々受け継いでいくこともできる。
狩野さんがアトリエの倉庫にストックしている、引き出しの数々。それぞれに長い歴史とストーリーがあり、家具の一部として使われていた時代の痕跡が残っています。
―たとえ古くなって使えなくなった家具でも、元の質が高いもので、自分の手で生まれ変わらせることができれば愛着が持てると。
狩野 はい。この引き出しの椅子も、本当は自分でDIYして作るのがベストだと思っているので、簡単に作れる設計にしています。電動ドリルさえあれば誰でもできますから(笑)。
―なるほど。DIYする際に、何かアドバイスはありますか?
狩野 奥行と幅だけ引き出しのサイズに合わせて、二脚以上つくる場合は高さを均一にするのが恰好よく仕上げるポイントですね。ピッタリ合わせ過ぎると引き出しがハマらなかったり、最初はなかなか上手くいかないかも知れませんが、慣れていくと何となく感覚が掴めてくると思います。まずは家にあるものからスタートすれば、アップサイクルもより身近になるはずです。
造船所の始業は朝の8時。日中は作業の音がアトリエの中まで聞こえるが、「もう慣れました(笑)」と狩野さん。
―そもそも、どうして造船所内にアトリエを構えようと思ったのですか?
狩野 もともとここの造船所の経営者と知り合いで、その方がアート好きだったので、2012年に独立した時、作業場所を探していると言ったら空いている部屋を貸してくだることになりました。実は僕、形式的にはこの造船所の社員なんです(笑)。たまに事務作業を手伝ったりはしますけど、基本的には自由に動かせてもらっています。そういえば、IDÉE GARAGEの椅子も造船所の職人さんにここで溶接してもらったんですよ。いつか造船所の環境を生かしたデザインもできたらと思っています。
最近は、船のはがれた塗装の破片を集めているそう。これがいつか、新たなプロダクトとなるかも…?
―最後に、今後の活動について教えてください。
狩野 今は静岡の若手伝統工芸職人団体「するがクリエィティブ」とコラボレーションして、漆や木工、染め物など、日本の伝統文化を活かしたプロジェクトを企画しています。例えば、昔の染め物の型を使って、エコバッグやブックカバーを作ったり。相当古い型なので、ところどころ破れたりしているんですけど、その破れた部分を逆に利用して上手くコントロールしながらデザインに盛り込んでいくんです。新しい柄を考えたほうが簡単かもしれないけれど、僕にとってはこのほうがよっぽど面白い作業なんです。2月のギフトショーで発表予定なので、ぜひチェックしてみてください。
老舗の染め物屋で代々使われてきた、藍染の型紙。
型紙のコピーを使って作られたカバンの試作品。余白に見える部分は、すべて古い型紙の劣化した部分を切り取る際にできた自然のデザイン。
柔和な物腰で、おだやかな印象の狩野さん。小学生の時は図工が得意な少年だったそう。取材後は、造船所の中を丁寧に案内してくれました。
次回は、Bouillonさん、狩野さんとともにIDÉE GARAGEに参加するクリエイター、DIYの大先輩でもある、GELCHOPさんのインタビューをお届けします。お楽しみに!
狩野さんによる2種の椅子は、六本木ミッドタウン内のIDÉE SHOP Midtown奥、IDÉE CAFÉ PARCにて実際に座ることができます。
次回は、ユニークかつハイクオリティなものづくりでDIYer(s)でもおなじみの3D造形ユニット、GELCHOPさんが登場します!
PROFILE
狩野佑真
1988年栃木県出身。東京造形大学を卒業後、アーティスト鈴木康広氏のアシスタントを経て2012年デザイン事務所「studio yumakano」を設立。2015年NPO法人「スマイルネジプロジェクト」設立。江戸末期から続く川崎市内の造船所にスタジオを構え、造船所という環境を活かしながらプロダクトデザインを中心に商品企画やブランドディレクション、インテリア設計、アートワークなど様々なプロジェクトを行う。
INFORMATION
IDÉE SHOP Midtown
東京都港区赤坂9-7-4 D-0316
東京ミッドタウン Galleria 3F
11:00~21:00
Tel.03-5413-3455
SERIES ARCHIVES
UPCYCLE OUR LIFE vol.1 -IDÉEが本気で考えた、モノづくりと暮らし方。-
UPCYCLE OUR LIFE Vol.2 工業×工芸の美しい融合。 Bouillonが提案する生活の“うまみ”とは?
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Japan
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