静岡挽物、引き継がれる道具と伝統工芸【MY DEAR GEAR Vol.2】
クリエイターが愛用する道具にフォーカスした新連載「MY DEAR GEAR」。“これなくしてうちのプロダクトは作れない!”という、それぞれにとって親愛なる相棒たちを紹介します。
公開日 2017.03.16
更新日 2022.01.07
静岡県清水市に工房を構えるSEE SEE。こちらの敷地内には静岡挽物の職人・百瀬さんのギャラリー「挽物所639」があります。そちらのギャラリーは古民家を改築しており、築年数はなんと150年
第2回目を迎えた新連載「MY DEAR GEAR」。ギアにフォーカスを当てた本企画では、様々なジャンルで活躍するクリエイターさんに、ご自身のものづくりの現場において絶対に欠かすことのできない“親愛なる道具たち”をご紹介いただきます。前回は、Reclaimed Wood(古材)による家具作りや内装提案を行うプロダクトデザインユニット「Reclaimed Works」のディレクターである岩西 剛(いわにし ごう)さんに登場いただきました。2回目となる今回は、静岡発のホームウェアブランドSEE SEEで、静岡挽物の職人を務める百瀬 聡文さんに愛用している道具をご紹介いただきます。
こちらは百瀬さんが製作したSEE SEEのプロダクトたち。静岡挽物が得意とする丸いシルエットにモダンなアートが落とし込まれた一輪挿し。りんごやスープ缶をモチーフにしたものなど、伝統工芸でありながらポップでユニークなデザインが並びます
壁にレイアウトされているスケートボードも百瀬さんが製作したもの。伝統工芸とはなかなか結びつかないストリートカルチャーとの融合が、SEE SEEのプロダクトの醍醐味です。
MY DEAR GEAR.01:刃物 鑿(のみ)
-こちらはどういった道具でしょうか?
「これは鑿(のみ)と呼ばれる刃物の一種で、木材を旋盤という器具に固定させたのち、回転させながら彫刻刀のように削っていく道具です。これがないと挽物を作ることができないので、まさに自分の手の代わりをしてくれる宝物のような大事な存在です」
-鑿(のみ)は何種類あるんでしょうか?
「鑿(のみ)は作るものによって、その数だけありますね。先端が孫の手のようになっている“釈迦(しゃか)”と呼ばれるものや“丸バイト”(上写真中央)に“平バイト”(上写真右)と大きく種類が分かれているんですが、その中でもいろいろな形があるんですよ」
工房の窓には鑿(のみ)がずらり。先述の通り、釈迦(しゃか)と呼ばれる種類にも複数の形があるのが見受けられる。工房内には大小様々な鑿(のみ)が50〜60本ほどあり、制作物によって使い分けていきます。
工工房を別の角度から。奥に見えるやぐらは百瀬さん自身で組み上げたもの。
-これらの形はどうやってオーダーしているんですか?
「鑿(のみ)はオーダーして誰かに作ってもらうのではなくて、挽物師が自分で鉄から作っていくんです。熱した鉄を鍛冶屋のように叩いていって、形を作ったら水に入れて冷やして研いでいくっていう流れで。先端の仕上がりでプロダクトの完成度も変わってくるので、イメージしながら作ってきます」
-作れるようになるまで時間がかかるんじゃないでしょうか?
「しっかり叩けるようになるまでは、10年くらいかかるイメージですね。ほかにも、旋盤の中央にしっかりと木材を固定して回転中にブレないようにする、というはじめの一歩的な作業も1年ほどかかりましたね。時間はかかりますが、そうやって技術や道具を習得することによって、ちゃんとしたプロダクトが世に出せるんです」
鑿(のみ)を使って削っていきます。木材が中央で固定されていないと、ブレながら回転してしまいます。そうなると綺麗な形に仕上げることができないため、中央で固定することが非常に大切な工程になるのです。
高速で回転する木材に鑿(のみ)の刃を当て、形を作っていきます。様々な種類の刃を使い分けて、イメージ通りの形へ仕上げていきます。
-最初に紹介していただいた鑿(のみ)はどれくらい使っているんでしょうか?
「これは昨年(2016年)に譲り受けたものなのですが、その方は何十年と使っていたと思いますよ。その譲ってもらった鑿(のみ)を自分で持ち手を削り直して握りやすくしたり、滑りにくく直していくんです。先端にある刃の角度を調整したりもするんですよ。最初は持ち手が木の無垢な表情だったのが使い込むことで経年変化していったり、挽物師が使いやすいようにアレンジされたり、職人の性格や作っているものによって異なるのが面白いところですよね。自分も弟子を取ったら、いつかは道具を引き継ぐんだろうなって思います」
何十年も携わっている挽物師になると、挽物を作る際に出た木くずの大きさや形で、何を作ったか、どんな道具を使ったかがわかるそう
取材時に特別に作ってもらった静岡挽物の一輪挿し(写真奥)。最初は8角形の木材(写真手前)でしたが、丁寧に削り上げることで滑らかな丸みを帯びたシルエットへ
最後に百瀬さんのものづくりに関してのバックボーンを聞いてみました。
「やっぱりいいものは何でも好きなんですよ。それがプロダクトでも、カルチャーでも、人であったりしても、いいものはいいんです。隣に築150年の古民家を改築して作ったギャラリーがあるんですけど、それもいいなって思ったから選んでいるし。あとは壁にスターウォーズに出てくるC−3POのフィギュがあったじゃないですか?作品が好きなのでグッズもいろいろ持っていたけど、引っ越しの際にほとんど処分したんです。でも、そのC-3POだけは写真やロゴ、フィギュアっていう全部をひっくるめたパッケージが好きだから手元に残していて。10年以上前に買ったフィギュアが手元に残っているように、自分が作った挽物が誰かのもとで10年以上大切にしてもらえたら。SNSなどで新しい情報がどんどん上積みされていく時代ですが、ずっとブレることのないプロダクトを作っていかなきゃいけないなって考えています」
工房の隅に飾られたC-3POのフィギュア。10年以上前に購入したものです。
引き継いだ道具を自分仕様に改良を加え、新たなプロダクトを生み出していく挽物師。継承された道具には、挽物師としてのストーリーが刻まれています。そして、その道具で作られた伝統工芸である静岡挽物は、末長く愛用できる素晴らしいクオリティが備わっています。まさに過去から現在へ繋がれた道具で生み出される未来へ続く静岡挽物。鑿(のみ)はそんな静岡挽物には欠かすことのできない、MY DEAR GEARでした。
INFORMATION
公式HP : http://shop.seesee-sfc.com/
Instagram:https://www.instagram.com/see.see.sfc/
TEL:Hanx PR 03-6677-7741
RELATED ARTICLE
Reclaimed Works、古材の家具作りに欠かせぬ相棒【MY DEAR GEAR Vo …
クリエイターが愛用するギアに迫る新連載が始まりました。「これなくしてうちのプロダクトは作れない!」という、それぞれにとって親愛なる相棒たちを...
SEE SEE〜静岡挽物〜デザインと出会った伝統工芸/CIRCLE of DIY Vol.10
スケートボードやスプレー缶、スープ缶といった多種多様なモチーフを一輪挿しというプロダクトへ落とし込んだホームウェアブランド「SE...
WRITTEN BY
Japan
DIYer(s)編集部です。DIYのアイデアやハウツー、おすすめツールやショップ情報まで幅広くお届けします!