石井佳苗さんが語る壁のインテリア
黎明期よりDIYをライフスタイルに取り入れていた女性DIYerの草分け的存在である、インテリアスタイリスト・石井佳苗さん。メディアでのスタイリングのほか、ウィンドウディスプレイや商品開発、セミナー講師など、多岐に活動する彼女が、昨年12月に新著を上梓。本作品に収録されているセルフリノベーションで作られた室内は、豊かに暮らすための賢いDIYアイデアの宝庫!そんな彼女のお部屋へ実際に伺い取材を敢行。全2回からなる、DIYer必見のインタビュー企画です。 Photography_HIDETO AIDA Interview_MITSUHARU YAMAMURA
公開日 2017.02.04
更新日 2022.01.07
関連記事
石井さんが提案する“自由な壁”を象徴するリビングの壁面。ミッドセンチュリー時代のルームライトやフレームに入った観葉植物、L字棚、本棚、アートなどいろいろ。多要素ながらすっきりとしたレイアウトは“自由な壁”だからこそ叶うのです。
壁面収納を最大に生かしたキッチンスペース。まず目に入るのが、迷いもなくネジ打ちされた複数の収納棚。“壁に穴を開けても大丈夫?”、“なぜネジ打ちできているの?”といった疑問は、後ほど解消されます。
自由な壁があれば、インテリアは断然楽しい!
初めて大工道具を触るビギナーでも試せるDIYのコツから、ひと手間加えるだけで日々の暮らしがグッと楽しくなる!インテリアづくりのアイデアまで。自分でつくるライフスタイルの愉しみ方を、さまざまなかたちで私たちに教えてくれる、インテリアスタイリスト・石井佳苗さん。
石井さんのスタイリングやアイデアが共感を呼ぶ理由。それは、ほとんどすべて、ご自身が経験されたことをベースにしているから。昨年12月に出版されたばかりの著書、『Love customizer 2 DIY×セルフリノベーションでつくる家』でも、実際に購入した中古マンションがDIYとセルフリノベで生まれ変わっていく様子がわかりやすく紹介されていて、あれもこれも真似してみたくなることばかり!
今回、その著書の舞台ともなった、石井さんのお住まいにお邪魔させていただくと…… 。まずパッと目を奪われたのが、壁面のディスプレイ。絵画やポスターのほか、お手製の本棚や小物棚が、すっきりと美しく、フラットな壁を彩っています。インテリアのなかで、もしかしたらいちばんハードルが高いとも言える壁面の使い方。初心者でもできるDIYのコツも交えて、石井さんが考える“自由な壁の遊び方”について伺いました。
INTERVIEW_01:【ハード面から見る部屋作り】
インテリアスタイリストの石井佳苗さん。今回、“DIY+賢くプロに頼む”という考え方でセルフリノベーションを敢行。壁や床といったいわゆるハード面まで、ご自身の手でリノベーションを果たしました。
-インテリアにおける「壁」の存在とはどういうものでしょうか?
「スタイリングのお仕事をするときでも、空間があって、家具を置いて、そこにもうひとつプラスαとなったときに、壁面をアレンジしていくことが、どうしても重要な要素になってきます。フレームに入った絵画やポスターは、床に置くこともできますが、やっぱり壁に掛けられて、宙に浮いた状態になっているほうが、断然すてきに見えますよね。なんでもそうですが、寄りかかっている状態よりも、壁にきっちり付けてあげると、そのモノの見え方も変わってくるんです。周りの余白の部分や、部屋の空気感すら変わる。視線も自然とそこに向くことで、部屋のなかにお気に入りの場所が増えて、ますます自分の家が好きになっていく、という効果もあります」
実は寝室を含め、キッチンやリビング、洗面所など、すべて既存の壁を取り払い新たに壁を自身で作り出しているんです。ここがもともと和室だったなんて、信じられますか? リビングにつながる写真右手には障子張りのふすまもあったそうです。
場面が変わってこちらは洗面所。もともとはオーソドックスな真っ白い空間だったそう。前述の通り、洗面所も既存の壁を取り払って、新たに壁を制作。ニュアンスのある白塗りの壁とタイルのコンビネーションは、どこか海外のアパートメントのような雰囲気に。
- 「壁」を楽しむために、まず必要なことはなんでしょうか?
「賃貸では難しいかもしれませんが、新築やリノベーションの際はまず、どこにでも釘を打つことのできる一枚の壁を、下地の段階で室内に作っておくことです。ふだん、壁に釘やネジを打とうとするときは、一般的な壁材として使われる石膏ボード一枚の場所では脆いので、コンコンと壁をノックしてみて、裏に柱や構造材が通っているところを見つけないといけません。ただ、『ホントはもう少しこっちにずらしたいんだけどな』と思っても、掛けたい場所を自由に選べず、家の構造や下地に左右されてしまう。そのストレスをなくすために、あらかじめ下地全面にベニヤを入れた、一枚の壁をつくります。素材としては、つるっとしたシナ材だときれいに仕上がりますが、コストダウンするためには安価なラーチ材とベニヤを重ねてもよいでしょう。そうして最初にちゃんとつくっておけば、そのあとずっと住み続けながら、好きなように壁面のインテリアが楽しめますよ。わが家でも、ほとんどの壁をそうしています」
自由な壁に作るモダンな収納棚
WALL STORAGE_01 「愛書で構成された魅せる本棚」
塗装したウッドフレームで構成された本棚。スクエアのシルエットに、ぴったりと余白なく本が収納される様子は見た目にも美しいですよね。それもそのはず、こちらは本のサイズを採寸し、それに合わせて製作しているんです。
35mmという厚手の足場板を大胆に使用した本棚は、寝室へ設置されています。また主張のある彫刻が施された棚受けも板材に負けない存在感。ちなみに足場板は棚受けが支えるのではなく、上から吊るしています。これだけデザイン性のある本棚なら、見せて収納しても漫画本独自の雰囲気が気になりません。
WALL STORAGE_02 「白と緑のコントラストが美しい壁面緑化」
先ほど紹介した、ウッドフレームの本棚を観葉植物へと応用。こちらは無塗装をしていないため、白塗りの壁面に自然と馴染みます。その分、青々しく広がる緑の葉と壁面のコントラストが美しく仕上がっています。
WALL STORAGE_03 「キッチン周りの壁面収納」
調理器具から調味料まで、日常的に行う料理に欠かせないものが収納されたキッチン棚。数が多く重量も増えてきますが、程よく厚さのある足場板を採用することで、2つの棚受けで支えることが可能に。この棚受けの数と棚板の?絶妙な厚さが、収納物が多くてもすっきりと見える理由です。
ハンドメイドのなべ敷きやざる、まな板なども壁面に収納。こういったアイテムセレクトひとつひとつからも石井さんの丁寧な暮らしぶりが伺えます。
WALL STORAGE_04 「アイアン塗装のL字棚」
器や陶器など、石井さんのお気に入りが飾られたL字棚。一見するとサビた金属のように見えますが、実はベニヤ板を使って製作しています。複数の塗料を使って生み出した絶妙な表情が、シンプルなデザインにニュアンスを与えます。
プロダクトの作り方、こっそり教えます!
HOW TO MAKE 「壁付けシューズボックス」
石井さん宅に入ると、まず最初に迎えてくれるDIYプロダクトがこちら。無塗装で仕上げられたナチュラルな横長のシューズボックスですが、こちらも壁に直接打ち付けられています。収納できる数は多くないですが、大きな壁一面のシューズボックスと異なり、玄関にありがちな圧迫感はなし。宙に浮かぶ様を見て、フランク・ロイド・ライトの『落水荘』が頭によぎった取材班でした。
こちらの作り方を新著から一部抜粋してご紹介。より詳しい作り方に関しては、作業写真とともに書籍に掲載されています。
材料と道具
■メジャー
■えんぴつ
■さしがね
■ドリルドライバー
■ラワンベニヤ(厚さ12mm)
■A(天板、底板):W830xH300mm 2枚
■B(背板):W830xH176mm 1枚
■C(側板):W288xH176mm 2枚
■D(ふた):W830xH200mm 1枚
■ゴールドの蝶番 2個
■つまみ1個
■マグネットキャッチ(ビス付)1セット
■造作ビスM2.2x38mm 16本
■ナベタッピングビス M3x38mm 8本
STEP.01
左)天板Aの両端から6mmの位置にそれぞれビス留め用の下穴を開けます。事前にえんぴつで印をつけておきましょう。(右)背板Bと天板Aをビス留めします。写真のように壁に押し当てつつ、重ねた本の上に天板Aを載せて作業するとスムーズに作業可能です。天板Aと背板Bを固定したら、側板C、底板Aの順にビスで固定します。
STEP.02
(左)フタDの端から10cmのところに2カ所蝶番をビス留めします。本体がずれないようにしっかりと合わせてから、天板Aの小口面にも蝶番のビス留めをしましょう。(右)底板AとフタDがしっかりと止まるように、それぞれの幅の中心合わせで測って印をつけます。そこへマグネットキャッチを底板Aにビス留めをしましょう。マグネットキャッチが当たる部分をしっかりと確認しながら、プレートをフタDへビス留めします。
STEP.03
玄関の壁になベタッピングビスを使い、シューズボックスを固定すれば完成です。
INTERVIEW_02:【自由な壁の作り方と活かし方】
キッチン横部分の壁面には、お気に入りのアートを好きなようにレイアウト。また、シンク周りで作業する際は壁面に設置した照明が手元を照らしてくれます。
- “自由な壁”の活用アイデアがあれば教えていただけますか?
「絵画やポスターなど平面のものだけでなく、立体感のあるものを加えてみると、空間に奥行きが生まれます。簡単に作ることができておすすめなのは、ここの壁にもつけているフレーム棚。自分で作るものは、極力シンプルで存在感を主張しないものがいいと思っているので、あえて圧迫感のないフレームのみにして。サイズも自由自在ですが、本のサイズに合わせて本棚にしたり、まん中にグリーンを吊り下げることもできます。銅板や黒板のように見えるL字の棚は、木にアイアン塗装をして錆びさせたもの。金具も目立たないほうがいいなと思って、打ち付けたネジの頭にも錆びさせる塗装をして、同化させています」
壁面に直接ネジなどで打ち付けて設置するために、立体的な空間となっている石井さん宅。これが効果的に視覚へ奥行きやメリハリを与えて、十分な収納でありながら圧迫感を解消しています。
こちらの鏡も棚に置いて斜めに立てかけるよりも、壁に設置することでしっかりとシルエットが際立っています。自身が気に入って購入したものの魅力を損なわず、いつまでも長く愛用する暮らし方でもあるのではないでしょうか?
壁と同色の塗装が施された引き出し。実はこちらは、石井さんが飼っている3匹のネコのためにDIYしたキャットタワー。いわゆる“それっぽさ”全開のデザインではなく、部屋との調和の取れたデザインとなっています。
- “自由な壁”を楽しむために、気をつけることはなんでしょうか?
「壁面だけでレイアウトするのではなく、下に置く家具とのバランスを見ることでしょうか。ソファやチェストなど、合わせる家具が変われば、当然、壁に掛けるものの位置も変わってきます。モノによっては、家具の真上ではなく少しずらしたほうがかっこいい場合もありますし、全体のバランスを見ることは大切ですね。見た目の美しさだけでなく、たとえば壁付けの照明なら、きちんと照らしたいところを照らせる位置になっているか、とか、ソファで立ち座りするときに出っ張りのある棚が頭にぶつからないかなど、基本的な動線をチェックすることも忘れずに!」
いつまでも眺めていたくなる美しい壁面レイアウト。自宅の購入やリノベーションを考えている方にぜひとも取り入れていただきたい“自由な壁”でした。
INFORMATION
石井佳苗●いしいかなえ/インテリアスタイリスト
東京都出身。インタリア家具メーカー、カッシーナ・イクスシーに入社。現在は、インテリアや暮らし周りのスタイリストとして活動しつつ、ウィンドウディスプレイやプロモーション、商品開発、講師等、活動の場を広げている。著書に『簡単! インテリアDIYのアイデア Love Cistomizer』『DAILY LIFE 日々を愉しむ大人のためのおしゃれと暮らし』(ともに株式会社エクスナレッジ) 、『インテリア練習帖』(宝島社)がある。(『Love Customizer No.2 DIY×セルフリノベーションでつくる家』より抜粋)
公式HP:http://www.kanaeishii-stylist.com/
Instagram:https://www.instagram.com/kanaeishii_lc/
「Love Customizer No.2 DIY×セルフリノベーションでつくる家」好評発売中!
著:石井佳苗 ¥1,600+税/株式会社エクスナレッジ
2016年12年に刊行された、石井佳苗氏による『簡単! インテリアDIYのアイデア Love Costomizer』の続編となる本作。自身の引越しを機に、“DIY+賢くプロに頼む”というテーマのもとセルフリノベーションを敢行。室内だけではなく、マンションそのものの周辺環境を意識した、DIYによる部屋作りの様子をたっぷりと収録。床や壁、キッチンから収納棚、はたまたペットのためのDIYなど、同氏が自ら実践するアイデアとフィロソフィーが詰まった1冊に。同氏の部屋作りから学ぶ、豊かな暮らし方は是非賢く取り入れたい。
RELATED ARTICLE
インテリアスタイリスト石井佳苗に学ぶDIY 〜ミニマルプロダクト〜
DIYの黎明期だった2012年ごろより、DIYにまつわるウェブマガジンやワークショップを主宰してきた石井佳苗さん。前回“自由な壁を楽しむ”で...
WRITTEN BY
Japan
DIYer(s)編集部です。DIYのアイデアやハウツー、おすすめツールやショップ情報まで幅広くお届けします!