石井佳苗さん(インテリアスタイリスト)に学ぶDIY 〜ミニマルプロダクト〜
DIYの黎明期だった2012年ごろより、DIYにまつわるウェブマガジンやワークショップを主宰してきた石井佳苗さん。前回“自由な壁を楽しむ”でもご紹介したセルフリノベーションで作り上げた自宅には、モダンなインテリアとDIYプロダクトが溶け込むように自然にレイアウトされていました。言われなければ、DIYしたと気づかないほどのクオリティ。それらには“ミニマル”という共通のキーワードがありました。 Photography_HIDETO AIDA Interview_MITSUHARU YAMAMURA
公開日 2017.02.10
更新日 2022.01.07
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石井さん宅のダイニング。まず目に入るのが、毎日でも眺めていたい器や道具の数々が収納された棚。古い雨戸で作ったというこちらは、無駄な装飾を省いたシンプルな作りとなっています。
もともとはふすまで仕切られていたという、リビングと寝室。採光と風通しの良さを意識した窓は、ウッドフレームで仕立てられたミニマルな佇まい。
DIYインテリアに宿すミニマルの美学
「DIYに関する書籍も出していますし、お仕事での依頼も多いので、私を知ってくださっている方は、DIYが大好き!な人だと思われているかもしれませんが、実はもともと、好きだから始めたわけではなくて。欲しいものがなかったから、ある意味仕方なく、自分で作るようになった、というだけなんです」と、ちょっぴり意外なホンネをつぶやいた、インテリアスタリストの石井佳苗さん。
たしかに石井さんのお部屋を見回してみると、空間に手作り感を漂わせているわけでは、決してなく。お気に入りのデザイナーズ家具などがある“隙間”に、ちょうどよい小ささのDIYプロダクトたちが、こっそり混ざり込んでいるという按配。あくまで存在感を主張しないシンプルでミニマルなデザインで、これをインテリアに違和感なくミックスさせるのが、石井さん流DIYの基本のようです。
さらに今回、中古マンションをカスタマイズするにあたり、『DIY + 職人技』という新たな愉しみ方を見つけたという石井さん。
ミニマルプロダクト作りから始まり、さらにもう一歩、進化を遂げようとしている石井さんの、「DIY道」について伺います。
INTERVIEW_01:【ミニマルプロダクトで構築された部屋作り】
天井を抜くことで、開放感のある室内に。レールに吊るされたアメリカのヴィンテージライトを生かすために、天井に設置されたライトはこちらのみ。
- 石井さんのDIYの基本は「ミニマルプロダクト」ということですが?
「 そもそもDIYを始めたのが、“ちょっとここに棚が欲しい”とか“こんなサイズの収納ボックスがあったらいいな”とか、機能面での必要性があるものだけど、市販では売っていない、という理由からだったんです。基本は、デザインされた家具が大好き。プロがきちんと計算して作ったものの美しさには、到底かなわないと思っていて。そのかわり、なんでもない箱とかフックとか、シンプルなものってなかなかないんですよね。どこか過剰で、余計なものが加えられたりしていることが多くて。自分で作るのは、そういうちょっとしたもの。そこにデザイン性は求めず、あくまで機能重視。そういう意味で、シンプルかつミニマルなプロダクト絞られるようになりました 」
ミニマルというテーマに限らず、アイテムセレクトにルールを持つことで統一感のある部屋作りが叶うようです。
壁付けの照明も装飾を省いたミニマルデザイン。シンプルだからこそ圧迫感を与えません。
石井さん宅には、絵画や彫刻、オブジェなどのアート作品も多くレイアウトされています。
-具体的に「ミニマルプロダクト」の魅力とはどんなものですか?
「たとえばこのティッシュボックス(下記MINIMAL DIY INTERIOR_04参照)。わざわざ高さを出して作ったのは、“ティッシュボックスっぽくなく”したかったから(笑)。この“っぽくない”ということが、私の場合、けっこう重要かもしれません。市販にないものを作るなら、いかにもじゃないものを作ったほうが面白いでしょ。ティッシュは箱から外して、中に裸のままで入れていますが、それも重しや蓋をするのではなく、単に石ころで押さえているだけ。自分で使うなら、それで十分です。キッチンのゴミ箱も、思い描いていたちょうどいいサイズのものがなかったので、ベニヤを組み合わせて、キャスターをつけて。あまりにシンプルすぎて物足りなければ、ツマミなどのパーツだけこだわったものを使うと、ぐっとオリジナリティが出せますよ」
ミニマルさに重きを置いたDIYプロダクト
MINIMAL DIY INTERIOR_01 「足場材で作るベンチ」
厚みのある足場板とヴィンテージの脚を使ってDIYしたシンプルなロングベンチ。腰掛けるのはもちろんのこと、観葉植物を置くなど棚として活躍させています。雰囲気のある足場板ですが、簡素な作りだからこそ置くものやレイアウトされる場所を選びません。
MINIMAL DIY INTERIOR_02 「シンプルなゴミ箱」
ベニヤ板で作ったシンプルなボックス型のゴミ箱。壁にある出っ張りに合わせて奥行きを設計しているため、ぴったりと収まります。ごちゃごちゃしがちなキッチンを整然とした印象に仕上げる影の立役者。キャスターが付いているため、移動も楽にできるのです。
MINIMAL DIY INTERIOR_03 「ラダータオルハンガー」
ヒノキの角材と棒材で製作された4段のラダータオルハンガー。バスタオルを広げた状態のままかけられるように、タオルのサイズを採寸して作られました。シンプルな見た目だけでなく、日々の生活を送る中での気持ちよさが感じられる仕上がりです。低い部分にはドライヤーなどを吊るして収納可能です。
安価な材料費で製作できたため2つ作ったラダータオルハンガー。もう1つは寝室に設置して、S字フックと組み合わせて洋服用のハンガーに。吊るしても、そのままバサッとかけても、すっきりと見せてくれる便利なプロダクトです。
MINIMAL DIY INTERIOR_04 「ティッシュボックス」
ダイニングの棚にぴったりと収納されているティッシュボックス。パッケージデザインからどうしても生活感が出てしまうティッシュボックスから取り出して、中身を移して使用します。テーブルからは中身が見えない、絶妙な高さにもこだわったんだとか。5枚のベニヤ板とボンドで作れる、取り入れやすさも魅力
MINIMAL DIY INTERIOR_05 「マガジンラック」
もともとは古道具屋さんで見つけたという、小さな引き出し。そのまま使うのではなく、あえて引き出しを抜き、フレームのみを使ってマガジンラックに。“自由な壁”で紹介したフレーム棚を下に設置することで床との間にスペースが生まれ、軽やかな印象に。抜いた引き出しは、ベッドサイドテーブルや猫用のベッドにアレンジされています。
プロダクトの作り方、こっそり教えます!
01_HOW TO MAKE 「5ボードベンチ」
5枚の木材から作られたその名も、5ボードベンチ。廊下からリビング、寝室のほか、はたまたベランダに置いてもサマになる、シンプルな面構えです。座ってもよし、写真のようにお気に入りの本を置いておく棚に使ってもよしなマルチな使い方ができるのも嬉しいところ。材料も工具も少なく作れるのに、お部屋をおしゃれに仕上げる秀逸な一品です。
こちらの作り方を新著から一部抜粋してご紹介。より詳しい作り方に関しては、作業写真とともに書籍に掲載されています。
TOOL&MATERIAL
材料と道具
■えんぴつ
■さしがね
■ドリルドライバー
■手ノコ
■クランプ
■紙ヤスリ(180番)
■木工用ボンド
■A(脚):SPF材 W184xH450xD38mm 2枚
■B(側板):SPF材 W1300xH89xD19mm 2枚
■C(座面):好みの古い板 W1400xH240mm 1枚
■皿木ネジ ネジ径3.1x長さ32mm 16本
STEP.01
右から時計回りに、A(脚)、B(側板)、C(座面)。少ない材料で作れるのが嬉しい
STEP.02
(左)Aの側面とBをボンドで接着します。ずれないように壁や添え木を使うと上手くいきます。ボンドが乾いたら皿木ネジでAとBを固定しましょう。(中央)脚部分が完成です。座面を乗せる部分にボンドをつけて、Cを左右均等になるように載せましょう。ボンドが乾いたら裏返して、脚部分から斜めにネジを打って、AとCを固定します。(右)壁を利用して、座面などがずれていないかチェックしましょう。
INTERVIEW_02:【石井佳苗のDIYルール】
石井さん宅のリビング。壁面収納として活躍するDIYプロダクトのほかにも、ローテーブルやイス、ライトなど、ミニマルデザインのプロダクトで構成されている
–新しい著書のなかにもある「DIY + 賢くプロに頼む」ということについて教えてください。
「 先ほど話したように、私のDIYはミニマルプロダクトがほとんどですが、今回のリノベーションでは、自分でも少し家具を作ってみようかと思って。ただ、作れるならどんなものでもいいというわけではなく、小物と同じで“ここにこんなものが欲しい”という、完成形のイメージが最初にあります。それが自分一人の能力や技術では難しい場合、職人さんにサポートしてもらうという方法を、初めて取り入れてみました。この方法が面白いのは、作っている最中にいくらでも仕様をプラスしたり、変更したりできること。サイズや色って、実際に形になってみないとわからないこともありますよね。設計図の時点では気づかなかったちょっとした部分を“やっぱりこうしたい”と、現場でわがままが言えて、相談しながら作ることができる。オーダーで丸投げしてしまうのではなく、自分も立ち合って一緒に作るからこその醍醐味です。プロにサポートしてもらうことのもう一つのメリットは、やっぱりプロならではのワザが盗めること。きれいに仕上げるコツや、失敗したときのリカバリー、道具の使い方など。これまで知らなかったことを教えてもらうことができて、いい経験になりました」
デザインされた家具が好きという石井さん。とはいえ主張しすぎず、ほかのインテリアとの調和が取れているかどうかも大切なようです。
壁同様に部屋の中で面積を大きく取る、床。ここの表情次第で部屋の印象もガラリと変わります。石井さんはビニール製のクッションフロアを剥がして、リビングは無垢のフローリング、ダイニングは石のタイルへ自身の手で変更しています
–石井さんの考える「DIYルール」をまとめていただけますか?
「インテリアはインテリアとして、プロの手でデザインされたものを美しく愉しむ場所でありたいので、自分で作るものは、あくまでシンプルでミニマルな、空間で主張しすぎないものにとどめておくこと。機能優先のミニマルプロダクトなら、多少おおざっぱでもOK。自分で作れる範囲で楽しめばよいと思います。一方で、もう少しこだわって完成度を上げたいなら、プロに一部サポートしてもらいながら、一緒に作っていくやり方がおすすめ。既製品でも、オーダーメイドでもない、自分らしさは残しつつ、イメージどおりに仕上げられる。全部を自分一人で完成させるという満足感も確かにあります。だけどある一定のところからはプロに教わるほうが、今まで知らなかった新しい発見もあるので、ますますDIYが楽しくなると思いますよ」
INFORMATION
石井佳苗●いしいかなえ/インテリアスタイリスト
東京都出身。インタリア家具メーカー、カッシーナ・イクスシーに入社。現在は、インテリアや暮らし周りのスタイリストとして活動しつつ、ウィンドウディスプレイやプロモーション、商品開発、講師等、活動の場を広げている。著書に『簡単! インテリアDIYのアイデア Love Cistomizer』『DAILY LIFE 日々を愉しむ大人のためのおしゃれと暮らし』(ともに株式会社エクスナレッジ) 、『インテリア練習帖』(宝島社)がある。(『Love Customizer No.2 DIY×セルフリノベーションでつくる家』より抜粋)
公式HP:http://www.kanaeishii-stylist.com/
Instagram:https://www.instagram.com/kanaeishii_lc/
「Love Customizer No.2」好評発売中!
著:石井佳苗 ¥1,600+税/株式会社エクスナレッジ
2016年12年に刊行された、石井佳苗氏による『簡単! インテリアDIYのアイデア Love Costomizer』の続編となる本作。自身の引越しを機に、“DIY+賢くプロに頼む”というテーマのもとセルフリノベーションを敢行。室内だけではなく、マンションそのものの周辺環境を意識した、DIYによる部屋作りの様子をたっぷりと収録。床や壁、キッチンから収納棚、はたまたペットのためのDIYなど、同氏が自ら実践するアイデアとフィロソフィーが詰まった1冊に。同氏の部屋作りから学ぶ、豊かな暮らし方は是非賢く取り入れたい。
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