波音が聞こえるプロダクト〜JM:jun murayama〜/CIRCLE of DIY Vol.07
全国各地に点在するDIYの文化をつなげ、波及させるべく始まった本連載。今回、フィーチャーするのは自分の育った環境と培ってきたカルチャーを融合させ、無二のDIYプロダクトを生み出す《JM》のデザイナー、jun murayamaさん。なぜこの活動を始めたのか、そしてモノ作りへのこだわりについて伺ってきました。
公開日 2016.10.29
更新日 2022.01.07
広い空の下、穏やかな時間が流れる葉山の海近くに構えられたjun murayamaさんの工房と住居。早速、工房を拝見しました。
秘密基地のような工房はなんとセルフビルド。
「独立するタイミングで、せっかくなら海があるところに引っ越そうと思ったんです。本当はすぐサーフィンに行ける湘南の方にしたかったんですけど、音を出していい良物件がなかったんですよ。その時に見つかったのがここ。最初は家の中に工房を作ろうかと思っていたけど、手狭になるから敷地も広いしもう1軒建ててしまおうと」
そう思い立って、ざっくりとした計算のみで図面もないまま、jun murayamaさんと同氏の父親、2人の大工の計4名で着工。わずか3日で屋根とまぐさを取り付けた状態にまで仕上げたというのだから驚き。
「資材は仕事柄安く手に入れられる繋がりがあったので、格安で譲ってもらいました。窓やドアの取り付けなどの最終的な仕上げは自分でやったんです。正直に言うとお金がなかったんですよ(笑)。引っ越してきて1年半になりますが、1日の半分はここで作業しています」
意外な返答でしたが、しっかりとした造りの建物。入ってみると木の香りがして、とても気持ちのいい場所でした。
前置きが長くなりましたが、同氏が手掛けるブランド《JM》。波に乗る感覚や自然の中で感じるフィーリングを元に、手作りにこだわったプロダクトを展開しています。立ち上げのきっかけを聞いてみました。
「遡ると、自分のじいさんが材木屋をやっていたんですよ。父親がその仕事を継いだんですが、いろいろとあって一回たたんです。ただ東急ハンズのDIYコーナーの内装を請け負うなどB to Bのお仕事はあったので、自分もそのまま父親の仕事を継ぐつもりで、当時新木場にあった“木のミュージアムショップ”で働いていました。でも母親に、『一度社会を見ておきなさい』と促されたんです」
小さい頃から木に触れる機会が多かったから、その重要性は感じていたそう。加えて、同氏にとって大きな存在であるサーフカルチャーに携わることに。
「サーフィンをやっているうち、これを仕事にしたいなと思って、今はなきミナミスポーツでも働き始めました。場所が芝浦の“ジュリアナ東京”跡地っていう、それだけでも面白い場所なんですが、当時サーフボードを日本一売るショップだったんですよ。それでも3、4年したら倒産することになって、そのタイミングで父親の仕事を継ぎました」
ミナミスポーツを辞める前に今後の自分を思い描いた最初の作品。海辺の工房でサーフボードにプレーナーをかける姿を表現。
「そこからはあっちこっちに木を配達しに行ったりしていましたね。新木場のミュージアムショップにもスタッフとして立っていたので、お客さんにこの木は何かって聞かれるわけですよ。でも最初は見分けられなくて、ひたすら勉強していました。60種類ぐらいある木目を見て、何がどの木なのか言えるようにならないと店員として機能しなかったんです」。
木に対する知識はこの時に磨かれ、さらに“作る”ことに対しても学ぶきっかけが訪れます。
「家具屋にも材料を配達していたので、そこで家具の作り方とか道具の使い方は見ていたんです。これを使えばこういう風になっていく、という。今、作っている家具も自宅の内装も、誰かに教えてもらったことってないんですよ。現場でいろいろな職人さんの動きを見て、自分やってみて覚えました」。
興味を持ち、観察して、作ってみる-まさにDIYの精神。ただここから波乱万丈な展開が。
「リーマンショックの影響で新木場の倉庫を出なくてはいけなくなったんです。そして両親と兄との4人で埼玉の朝霞市にお店を作ろうってなったのが8年前。ただ、徐々に売り上げは上がったものの、儲けが出るほどじゃないんですよ。材料が高いので、テーブルやソファも30万円ぐらいの高いものしか作れなかった。逆に安い材料を使って、安いものを作っても量販店にはかなわない。そうこうしている内に、もうそれぞれでやったほうがいいんじゃないか、となって、ここに引っ越してきたんです。その頃は、工房を作りながら、お店の片付けと機械の移動をしながらと激動な時期でしたね(笑)」。
そんな怒涛のような日々の前に知ったのが、写真・動画共有アプリ“Instagram”。このアプリとの出会いがjun murayamaさんが木工デザイナーとして知られるようになるきっかけとのこと。
「たまたま後輩と食事に行った時に、『最近何しているんですか?』と聞かれて、カリフォルニア発のセレクトショップにウッドスピーカーを卸していると話したら、すごく食いついてきて。彼だけでなく、彼のInstagramのフォロワーさんも好きだったみたいで、写真をアップしたら確実に見る人が増えると言われたんです。試しに投稿してみると、始めた次の日には100人ぐらいフォロワーさんが増えていて驚きました」。
その努力が形となって、今ではフォロワー数が9,000人以上。その分、セルフブランディングの必要性も生じてきて、葛藤も多いとのこと。
「僕はDIYでモノを作って売っているので、修行の経験がある職人と畑が違うんですよ。でも出来上がったモノは同じ木工品。あとはお客さんがどう判断するかなんですが、どうしてもDIYで作ったモノですっていうと安っぽいイメージになってしまう。ただ、単価を安くしてしまうと自分が生活できなくなるからDIY上がりでもしっかり時間をかけて作ったモノだってことを伝えなくてはいけない。そこにたどりつくのに苦労したし、今も努力してるところですね。職人さんが思いつかないようなことをやらなくてはいけないし、簡単に真似されるモノでもダメ。自分自身をしっかりとブランドとして成り立たせないといけないと常に意識しています」。
プロダクトは自ら自宅で実際に使うことでブラッシュアップを図っているそう。しっかりと足を地につけながらのモノ作り。だからこそ生まれてくるプロダクトには人の温もりが宿っています。
自宅で使わられている《JM》のアイテムたち。1つ1つ木の香りが感じられる素敵なモノばかりでした。
そしてモノ作りのアイデア源についても聞いてみました。
「実は腰椎分離症で本来はサーフィンをしないほうがいいんです。ただ、整体の先生に『もしやるならストレッチを最低20分やれ』って言われたんですが、着替えて波を見たらすぐに入りたくなるわけですよ。そこで好きな音楽を4、5曲聞けばそのぐらいの時間になるからと先生に言われたので、iPhoneを拾ってきた流木の上に置いて流していました。ただ波の音って大きくてそのまんまじゃ聞こえないから、どうにかならないかなって思ったんです。当時、朝霞の家具屋のお客さんにたまたま音楽をやってる東大の先生がいて、スピーカーを作りたいって相談したら『バックロードホーンっていう電源のいらないスピーカーが何百年も前からあるから、やってみたら』と言われて、試行錯誤した結果生まれたのが、先ほどのスピーカーなんです。いわば腰椎分離症だったからできたプロダクト(笑)。そんな風に、自分が本当に欲しいと思ったモノを形にしていますね」。
驚くような意外なきっかけながら、DIYerである読者の皆さんには共感できるエピソードかもしれません。
ちなみにスピーカーに書かれたサインは伝説的なサーファー、ロブ・マチャドのとのこと。
また、jun murayamaさんのお話を聞いていて面白かったのが、人のつながり。
「ワークショップや個展などのお誘いを受けるんですが、全部サーフィン絡みなんですよ。あと、スピーカーを通してアーティストの平井大くんのギタリストとも繋がったんです。僕自身がギターアンプも作っていて、一緒に作った人と『プロに聞いてもらいたいね』って言っていた矢先にメールで『音楽関係の仕事をしていて、スピーカーに興味があるから1台欲しい』と。そこで、『もちろん大丈夫なんですけど、不躾ながら知り合いにプロのギタリストはいませんか』と聞いたら『僕がそうです』って(笑)。それで、どうしても会いたいからスピーカーの納品がてらギターアンプも持っていったら、『平井大っていうアーティスト知ってますか?』って言われた。前にスピーカーを作ってる時にInstagramで、何かいい曲を知らないかと問いかけたら平井大にハマってますって声が多かった。そのタイミングでこの出会いだったので驚きましたね」。
そして、さらなる急展開が続きます。
「そうしたら、ちょうど1カ月後の“音霊”っていうイベントに招待されて、見に行ったんです。その時に平井大くんの制作の人なども紹介してもらって、次のツアーで使う背景の壁やセットを作ったんですよ。ただ当時、工房の前にウッドデッキを作ったばかりで、これが完成していなかったら大型のモノは作れなかっただけに本当にタイミングが良かった。納期が2週間と言われたのはびっくりしましたけどね(笑)」。
サーフィンや自分が作ったモノで、どんどん人と繋がり活動が豊かになっていくという素敵なエピソード。“モノ(物)を作ってコト(体験)を産み、 ヒト(人生)に彩りを加える”というDIYer(s)のスローガンをそのまま体現しているのがjun murayamaさんでした。
最後に今後の活動について。
「お店を持ってないから、顔を見て直接商品を買ってもらうために、ワークショップという形でイベントをあちこちでやっています。それはモノ作りを体験してもらいながら、僕の想いを伝える場なので、継続していきたいですね。モノで言えば、今はドリームキャッチャーを作っています。あとはオーダーをちょこちょこ頂いているので、それらをしっかり仕上げていくことですね」。
以上、CIRCLE OF DIYの第6弾としてお届けしたjun murayamaさん。きっと皆さんの中にも同氏のようにDIYしたモノを販売できたらと考えている方もいるのではないでしょうか。ぜひ彼のように思い描くプロダクトを形にし、自分なりのやり方で発信してみてください!
PROFILE
jun murayama
木工デザイナーとして、自身のブランド《JM》を手掛ける 。波乗りをするときに受けるインスピレーションで海を感じる家具やインテリア、アパレルなどを発表し、人気を集めている。
Instagram:https://www.instagram.com/jun.murayama/
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