“素材のプロ”が聞く!『無垢材』と暮らしの上手な付き合い方

元マテリアルバイヤーである岩西氏が素材に着目して家づくりを考える本企画。今回は天然の木材「無垢材」に真摯に向き合い本質を語る茅ヶ崎の末綱さんのもとを訪れ「無垢材」へのこだわりを伺いました。

公開日 2023.05.31

更新日 2023.06.02

“素材のプロ”が聞く!『無垢材』と暮らしの上手な付き合い方

はじめに

 「素材」を表す英語のマテリアル(material)は、中世ラテン語のマテリア(materia)という言葉が語源で、それはもともと建築用の「木材」を意味するものだったそう。古来より「木材」はあらゆる環境に存在し、世界中で多くの職人によって扱われ「最高の素材」と敬われてきました。しかし、技術の発展により様々な新しい素材が開発され、今や「木材」は一番の素材ではなくなりました。それまで木材は「うごき(狂い)」のある「生きた素材」として尊重されてきましたが、生産性を重視する現代ではその特性がネックとなり疎まれることさえあります。とはいえ、人間の木材への欲求は今もとどまることなく「木目調」といった形骸化された木材からでも癒しを求めようとしています。
“素材のプロが聞く”!『無垢材』と暮らしの上手な付き合い方

LOGGERの末綱さん。実はインタビュアーである岩西氏とは同じ会社で働いていた元同僚。当時のことを思い出し、にぎやかに話がすすみました。

今回取材に伺った末綱さんは茅ヶ崎でLOGGER WOOD SUPPLY CO.(以下ロガー )
という木材加工工場を運営。顧客は主に設計事務所やショップオーナー。様々な無垢材を使い、類まれなるセンスで店舗内装向けに家具什器やフローリング製作を手掛けています。

今回『無垢材のこだわり方』をテーマにお話を伺うのですが、そもそも末綱さんの 『木材』との出会いはどのようなものだったのでしょうか?また現在のロガー設立の経緯を教えてください。

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1Fストックヤード。雑然と並べられ手いるように見えるが『新材』と『古材』が在種を分けてキレイに保管されている。

>末綱さん
『木材』との出会いは約20年前、当時働いていたギャラップという会社がスタートです。そこで扱っていた木材が特殊でアメリカにある古い建物を解体したところから出る『古材』と呼ばれるものでした。バーンウッドにハンドヒューンビーム、オークにチーク。デッキ用のイエローパインなどもあって新旧問わず当時、大いに刺激を受けました。100年以上使われていた古材は、集成材などは存在していなかった為、全て天然の木材でした。なので今回のテーマになっている『無垢材』という感覚や言葉は振り返ればその当時ほとんど意識することはなかったように思います。
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ロガーで手掛けた店舗家具。レッドオークを什器や装飾で使用。 北海道産タモ ベンチ棚什器( JENNIFER SEVEN burger shop 原宿 /設計Trimtab

『無垢材』と一口にいっても種類があるかと思います。末綱さんが扱うこだわりの『無垢材』とはどんなものでしょうか。また末綱さんにとっての無垢材とはなんでしょうか?

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乾燥機に入った北海道旭岳産のタモ材、『芯持ち』と呼ばれ、丸太の製材過程ではじかれたデッドストック。このような材は通常ひび割れが起こるため敬遠されがちだが、末綱さんはこの材料にしか出ない良さを見出してあえて使用する。

>末綱さん
前職では『古材』だけでなく『塗料』『金物』など様々なマテリアルを扱っていましたが、逆にロガーでは特化したことをやっていきたいと思い『木材』を扱うことに決めました。これまで古材を扱ってはきましたが『新しい木材』にも古材のような独自の雰囲気と面白さがあることを知りロガーでは材料の新旧問わず『その材だけがもつ素材感』を大切に『無垢材』を中心とした店舗内装向けの木材加工を手がけることにしました。
>末綱さん
ロガーでは『針葉樹』『広葉樹』共に扱っています。国内のものだと北海道の『ミズナラ』や『カエデ』、面白いものだと野球のバット工場ではじかれ製品には使えない『芯持ち』と呼ばれる割れが入った『タモ』なんかもあります。輸入物ではアメリカメイン州の『レッドオーク』。東海岸からは『スプルース』や西海岸の『ダグラスファー』『レッドウッド』などの古材も輸入しています。
“素材のプロが聞く”!『無垢材』と暮らしの上手な付き合い方

上記のデッドストックのタモ材を面取りサネ加工して作った『Bead Board』と呼ばれる壁面材はロガー の定番。新材でありながらも古材のように枯れた風合いが味わい深い。

>末綱さん
僕のなかで『無垢材』は、何も添加されていない天然の丸太から切り出された材料だと思っています。そのような素材は総じて経年変化の様が美しいです。特に普段は店舗向けの仕事をしているので、今回テーマの『無垢材』といっても『店舗向け』と『住宅向け』それぞれに向き不向きな無垢材の使い方みたいなものがあるかもと考える良い機会にもなりました。住まいづくりを考えている人はどのような選択肢の中から、フローリングなどの「素材」を選択をしているのでしょうか?木材を接着剤で固めてつくる『集成材』だったり、細かいものを繋いだ『ユニフローリング』なども『無垢材』と呼ぶことがあるそうですね。歩留まりの悪い細かい木材が活用され無駄にならないことは良いことですが、施主がきちんとそれらを理解して納得して素材の選択ができる環境があるとよいですよね。でも、僕ならやっぱり木目がキレイに通った普通のフローリングをつかいたい(笑)。

このスペースにも多くの『無垢材』が使われています。『アメリカにありそうな『製材所』のような雑然としたスペース』という抽象的なイメージで作ったそうですが、材料の使い方はとても具体的なものを感じます。ここでの材料のこだわりを教えてください。

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窓枠の『ダグラスファー』と壁に使われている『ホワイトパイン』はどちらもアメリカでは安価でポピュラーな材。日本で言えば『杉』のようなもの。

>末綱さん
この事務所スペースはアメリカでは本当にポピュラーな無垢材を使っています。窓枠は日本でもベイマツとして馴染みのあるカリフォルニア産『ダグラスファー』という材料。また壁に使用している材はアイダホ産の『ホワイトパイン』です。どちらも針葉樹でラフさの加減やアメリカでの扱われ方などが似ているので取り合わせが良いのかもしれません。特に塗装はせず無塗装のまま使っています。改めて見るとかなり日焼けをしているし『節』や『割れ』に『欠け』、おまけに『隙間』もあります。これらはデメリットと言うよりかは『そういうもの』とありのままに受け入れています。

同じような「パイン材」を使ったらこうなるのではないかと「素材」だけに着目しそうな気がします。しかし、この空間が醸し出す雰囲気は「素材」だけではなく「サイズ」の影響もあるかと思いますが、そのこだわりはあるのでしょうか?

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アトリエの内外に貼られた「ホワイトパイン」。

>末綱さん
自分が好きな雑然としたアメリカ的なワークスペース感を実験的に試した空間です。おおらかで適当な感じの間取りが空間のスケール感にも影響していると思います。壁材の選定の際にサイズはあまり気にすることはありませんでしたがアメリカで製材されている為インチサイズで作られていることも見え方に違いを生んでいるとおもいます。壁のホワイトパインは長さ12Ft(約3600mm)で板幅は9inch(約230mm)、厚み3/4inch(約19mm)と大ぶりです。このホワイトパインはフローリングと同じようにサネ加工がされているものです。単純な板貼りとサネ加工をしているものでは、貼った時の見え方も変わってくると思います。ただ、このようなサイズの材を一般の住宅に取り入れるのはスケール感の違いから難しいところもありますが、インチサイズがちょっとした外国感を作り出しているのはあるかもしれませんね。

自宅にも「無垢材」を取り入れその導入の難しさを実感したそうですが、その時のエピソードを教えてください。

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店舗用に作った古材のスプルースを使ったカウンター。

僕の自宅はロガーの工場から車で15分ほどの住宅街。もともとは築10年ほどの中古住宅でしたが、かれこれ20年近く住んでいます。合板フローリングやアルミサッシなどが使われた、無垢材や自然素材とは程遠い家です。住み始めた当初はリノベーションを試そうとしましたが、『なにか違うな』と結局ほとんどいじらずに20年経って合板のフローリングも馴染み、愛着も相まっていまに至ってます(笑)。そんな僕が今回『無垢材』を語るのもなんだかおかしな話ですが(笑)。
それでも以前に自宅のキッチンカウンターを普段店舗向けに使っている古材のスプルースで製作したことがありました。普段使い慣れている木材を自宅に用いるとどんな感じだろう?と。便利になったことで妻には喜ばれましたが、僕は『この家には似合わない』と思いました。古材は個性が強いのでどちらかというと店舗の内装と相性が良いと思いますし、駆体や構造に関わるような場合は新材のほうがしっくりくるかと思います。
“素材のプロが聞く”!『無垢材』と暮らしの上手な付き合い方

アトリエ内の一角。床は「ラーチ合板」天井にはアメリカ製「MDF」のBeadBoardと「新建材」と「無垢材」が調和した心地よい空間。素材の使い方にプロのこだわりを感じる。

>末綱さん
ちなみに僕は作業着に「ディッキーズ」や「カーハート」なんかを着てるのですが、こういった大量生産されたものがヤレていく様子が好きなんです。それと同じように「集成材」や「ベニヤ」など量産型の建材も使い込むほどに味が出て愛着が湧いてくるんです。「無垢材」が最上級とは決して思ってはいないんです。

無垢材を使った素敵な施工例を見させてもらうと、やはりプロだなと感じざるを得ません。一般の方が無垢材を取り入れる際のアドバイスがあれば教えてください。

“素材のプロ”が聞く!『無垢材』と暮らしの上手な付き合い方

床と壁に同じ「レッドオーク」を貼った保育園。同じ材とは言え素足で歩く子どもたちのために木肌が優しいものを床にと使い分けた。 アメリカ産レッドオーク フローリング壁材 (QUOLIS KIDS亀戸 /設計FFA)

>末綱さん
アドバイスができるとすれば『生活様式の逆算』から材料を考えるとよいかもしれません。例えばフローリングの在種や塗装を考えたときに海外のインテリアに憧れはするけれどとはいえやはりここは日本ですから基本素足が前提になること多いですよね。材種は大いに迷うところですが、仕上げはやはりオイル仕上げがしっくりきます。その場合はヤニを多く含むパイン材などは注意が必要ですね。逆に土足の空間で無垢材を使うようなシチュエーションならニスでこってり仕上げるのもありだと思います。

最後にこのような素敵な家具や空間を住宅に取り入れたい場合に末綱さんにお願いすることはできるでしょうか?

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節や割れが味わい深い「イタヤカエデ」の無垢材。ノミで削り出す独自の方法で作られたカウンターパネルは迫力がある。木肌がキレイなため塗装はあえてしていないそう。 北海道産楓材カウンター(NAVY/ DOUBLE DOORS七里ヶ浜)

>末綱さん
 顧客のほとんどは設計事務所や店舗などの法人オーナーさんです。製作物に関しては材料選定から仕上げまでほぼお任せしていただいています。これができるのは『無垢材』という特殊な素材に理解を持っていただいていることと、僕との信頼関係の賜物なんです。 全ての製作物は在庫商品でなく毎回一回限りのフルオーダーメイドですので、当然全ての工程に時間も掛かります。住宅に取り入れたいという一般のお客様からのご要望をいただくこともありますが、現状ではお断りさせていただいてます。少人数で運営していることもあり、お客様一人ひとりにコミニュケーションと時間を掛けることが難しいからです。木材に関する仕事は一筋縄ではいきません。また一方ではそれが面白くて魅力的だとも思っています。
スツールなどは現地購入が可能。ぜひ、お問い合わせしてみてはいかがでしょうか。

まとめ

ミズナラの丸太から削り出したオリジナルのスツール

昨今、木造の高層ビルが建築されるなど「木材」への概念が変わってきているようです。
しかし、一般的には「木材っぽい」もので納得してしまった頃から、「無垢材」への理解が乏しくなったのは否めません。末綱さんが語る「無垢材」を取り入れることの難しさは、この「理解不足」から来ているのではと感じてなりません。
DIYer(s)を運営するカシワバラ・コーポレーションでは、このような無垢材を活かしたリノベーションもご提案中。今回の記事で興味を持ってくださった方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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