UQiYO、151A_RTプロジェクト:旅するCDがクリエイターを繋ぐ/CIRCLE of DIY Vol.15

DIYにまつわるヒト・モノ・コトを紹介し、この文化を広く波及させよう始まった本連載。今回は音楽ユニット「UQiYO(ウキヨ)」が手掛ける「151A_RTプロジェクト」をフィーチャーします。

公開日 2017.04.05

更新日 2022.01.07

UQiYO、151A_RTプロジェクト:旅するCDがクリエイターを繋ぐ/CIRCLE of DIY Vol.15

まずは「UQiYO」についての説明から。2010年にYuqi(Vo, G, Piano, Loop)とPhantao(Piano, Key)により活動を開始し、2014年1月にSima(Dr, Per)が加入して現在は3人で活動している音楽ユニット。全国で精力的にライブを行い、SUMMER SONIC 2016、ARABAKI ROCK FEST.16、スピッツ主催の新木場サンセット2016、RISING SUN ROCK FESTIVAL 2015 in EZO等、各種大型フェスにも出演するなど、シーンを盛り上げています。
そして、今回このユニットをフィーチャーする理由は、彼らが行っている「151A_RTプロジェクト」。筆者がいちファンとして、かけつけたライブ会場でYuqiさんからこの世に1枚しかないCDをクリエイターからクリエイターへつなぎ、新たな作品を作りながら、全国を縦断させるというこの活動の話を聞いた瞬間、これは編集部として追いかけねば!という思いが生まれたのでした。

そこで、その思いを形にするべくYuqiさんとこのプロジェクトを共に運営するデザインスタジオTWOTONEのアートディレクター茂出木さんの元へ。この活動を行うことになったきっかけや思いなど、気になる問いに答えていただきました。

—まずお二人の出会いから教えてください。

(Yuqi)「UQiYOというバンドが発足した当初は、いい音楽をいっぱい作って刷ればどこかには届くだろうという思いがあったんです。でも、アルバムを作って、デモをレコード会社やレーベルに送って契約こぎつけてメジャーデビューする、ということにロマンを感じなくなってきた時期があったんですね。ただ当然、代表作もないようなバンドが何をしたらいいんだろうという悩みに突き当たって。そこで、そういうモノ作りをしている人はたくさんいるなと思ったんですよ。デザイナーしかり、動画のディレクターやカメラマン、はたまたそういうデザインスタジオなど。その人たちに直接投げかけたらどうなるかなと思って、当時できたデモCDを自分で探した80社ぐらいに送ってみたんです」

—その送った1社がTWOTONEさんだったと。

(Yuqi)「そうです。でも、やっぱりほとんど返事はないんですよ。いきなりそんなよく分からないインディーズのバンドからCDが送られてきても、明らかに怪しいと自分でも思いますし。その中でも2社ぐらい返事が来て、その1社が茂出木さんのところで、『面白い試みをやってらっしゃる』とお褒めの言葉までいただいて。正直すごくそのメールの返信があっただけで嬉しかった。しかも、今度一緒に何かできたら、という内容まであって。それが社交辞令的なやつなんだろうなとは思いつつ(笑)、反応があっただけで十分だった」

—茂出木さんはその時の印象はいかがでしたか?

(茂出木)「僕はアートディレクションが仕事なので、そういうことがちょこちょこあるんですよ。カメラマンからとか、ムービーのディレクターとか、イラストレーターから、作品が送られてきて見させてもらう。UQiYOのCDもその中の1つで実は忙しい時期ということもあって、ちょっと放置してしまってたんです。でも、落ち着いたタイミングで聞いてみたらすごく良くて、個人的にも好きなテイストだった。僕がデザイン制作をしているのは知っている上で、仕事で絡めたらという内容の手紙も同封して送ってくれたんですよ。でももう、仕事で絡むっていうより、この人たちの作品を一緒に作るってほうが面白いと思った。そのあといろいろ考えて、MVにたどり着きました」

—え!すぐMVだったんですね。

(Yuqi)「僕らも正直かなり驚きましたね。最初のメールのやりとりから1カ月か2カ月後ぐらいに、MVを撮ろうと思っているのですがスケジュールいかがですか?っていう具体的な連絡があって。それが屋上で撮影した、『At the Starcamp』という曲のMV。これがものすごい規模で、ほぼ初対面の僕たちに対してここまでやってくれるのか、と。正直いくら払わないといけないんだろう……って思っていました(笑)」
(茂出木)「やばい話かなと思ったんだ(笑)」

(Yuqi)「思ってましたよ。はい100万円みたいなことをいつ言われるんだろうなって(笑)。でも、当たり前ですがその辺は実際まったくなく、撮影日の夜に少ないお礼になりますが演奏をさせてもらいました。そこからの付き合いで、いろいろと相談させてもらっていて、毎回『いいですね。やりましょう』みたいに打ったら響いてくれるんです。なんでこんなによくしてくれるんだろうな、というのが今も続いています(笑)」
(茂出木)「この件以降もMVを一緒に作ったり、アルバムのジャケットデザインをやらせてもらったり、目に見えるところは関わらせてもらってますね」

—その流れで「151A_RTプロジェクト」も始まったんですか?

(茂出木)「実は2回目の挑戦になるんです。1回目『151Aプロジェクト』という名前で始まりはUQiYOのメンバー発信でしたね。“浮遊するCD”みたいなアイデアで」

(Yuqi)「1回目は当時のスタッフがある日、1枚のCDを手渡しで誰か大切な人に渡していくっていう連鎖反応が起こるような企画が面白いんじゃないかな、って案をざっくり持ち出したんです。UQiYOも日常を心地よい非日常、つまり浮世にいざなう音楽ユニットとしてやっているので、この“浮遊する”という言葉にピンときたんですよ。それからアイデアを膨らませていって、どうせなら方向性をもたせて北から南に日本を縦断させてみようと。その時も企画の種を持って茂出木さんのところに相談しに行きましたね。具体的なルールなど、いろいろなことを一緒に考えて決めた。トランクの中身やデザインなどもお願いして。1発目は残念ながら途中で行方が分からなくなってしまったのですが、それがすごく惜しいぐらい、素敵な内容だったんですよ」

—その進行の状況はSNS投稿によるハッシュタグ(#浮遊する歌)で確認していたんですよね?どこあたりで行方が途絶えてしまったんですか?

(Yuqi)「Twitter、Facebook、InstagramなどのSNSで投稿してもらって場所は確認してました。おそらくなんですが、栃木あたりで止まってしまったようです。それもハッシュタグをつけた最後のツィートしてくれた仙台の方が何人か先まで調べてくれたんですが見つからずで……」

—残念としか言いようがないですね……。茂出木さんは、この企画の印象はいかがでしたか?

(茂出木)「今っぽい企画だなと思いました。人から人という形で、“みんなが主役”なのが良かった。1回目も、聞いた時には行けるかなとは思ったんですが、そこまで甘くはなかったですね。もちろん反省するところもあって、やっぱり受け取った人に対してのリクエストがどうしても多くなってしまうんですよ。CDを聴いてもらって、トランクの中に入っているノートに、よかったら感想を書いてねとか、次の人に渡す時も手渡しでお願いします、とか。ルールブックに従ってやっていると、それなりに手間がかかる。そこまで求めるのが酷だったのかな、と思います。その部分を克服というか、解消できる方法を見つけて、2回目をやってみようっていうところまで来て、スタートしました」

—それが「151A_RTプロジェクト」と名前を変えて始まったんですね。1回目との違いは?

(Yuqi)「根本的に1つの楽曲が、北海道から沖縄へ旅して、到達した際に全国で音源リリースをするという設定は変えていません。ただ、受け取り手をモノ作りをされている方限定とし、画家や映像作家、パフォーマー、造形作家、音楽プロデューサー、グラフィックデザイナー、さまざまな作家の手から手へ渡る形にしました。そこでCDを受け取った作家さんには楽曲を聴いてもらい、湧き上がるイマジネーションで作品を作ってもらい、Instagramにハッシュタグをつけて投稿してもらうのが新しいルール。そのハッシュタグも#151a_rtに変えて一新しました。あとは無事、沖縄に到着した際には共創リレーをしてきた作り手の作品を一堂に集めたエキシビジョンの開催を予定しています。もちろんUQiYOも、その場でライブを演る予定です」

—そのキーワードとして“クリエイター”や“モノ作り”とされていますが、その理由はなんだったんですか?

(茂出木)「大きいところでいうとUQiYOも僕の事務所のTWOTONEも、色々なモノ作りをしている人たちと近いところにいて、コラボレーションをやり続けて成長してきている。そういったことがこのプロジェクトでもできたらな、という。受け取った人がCDに入っている曲を聴いて、インスパイアされてモノ作りしながらリレーしていければ、このプロジェクトの面白みが出るし、UQiYOらしいのかなと。1回目の反省点として受け取った人に頼むことが多かったことを考え、自発的に参加できる人に焦点を当てました。やはり、参加してくれる人のモチベーションが大事なので、自分がUQiYOのプロジェクトに関わっているっていうのが目に見えて分かるようにすれば、沖縄まで行けるのかなと。そのためにもハッシュタグもHPをリニューアルして、参加してくれたクリエイターさんの作品が見れるようにしています。これにより、参加された方の活動が普段の受け手以外に伝わったり、広がりがあったりするかなと思ったんです」
芸術家 滝花保和さんの作品

—なるほど。確かに今はSNSが発達して情報の共有が身近になったので、このプロジェクトにどういうクリエイターが参加してるかも一目でわかるからいいですし、口コミのような感じで波及しそうですね。

(Yuqi)「すべての都道府県を網羅しないといけないっていうルールはないので、うまく繋がっていけばいいなと思っています」
ガラス作家 Asada Kaoさんの作品

—いつ頃、沖縄到着すると予想されていますか?

(茂出木)「正直難しいんですよね。早く行ってほしい気持ちもあるし、いろいろな人の手に渡っていく面白さもあるので」

(Yuqi)「音楽的な面で言うと、1つの音楽が古くなるのは早い時代だと思っているんです。なので、沖縄に到着するまでに古くなってしまうかなという心配があるけど、今改めて聞いてみるとそんなに時代の先端を考えた曲じゃなかったなって思うんですよ。なので割と開き直ってます(笑)」

(茂出木)「一応、2回目スタートした際にリファイン(改良)したんですよね。今回、沖縄についてリリースする前に、再度リファインしていいんじゃない」

(Yuqi)「確かに。最初のリファインは誰もわからないぐらいの内容だったので、リリースするあたってはさらに手を加えていいかもですね。このプロジェクトで曲のリミックスをしてくれた人もいるので、そういう要素を踏まえて」

(茂出木)「そのリミックスもだけど、すでにアップしてくれる作品がどれもクオリティが高いんですよね」
芸術家 坂本英子さんの作品
(Yuqi)「1回目とは違って、良い意味で、受け取ることのハードルが高くなってますよね」

—いちファンの身でおこがましいですが、自分自身もこのプロジェクトに関わりたいな、と思いました。

(茂出木)「ぜひぜひ。僕らとしてもそう言ってくれる方が増えてほしいし、DIYer(s)の読者の方でやりたい人が出てきた時のパイプ役になってくれたら嬉しいです!」
モビール作家jobin.さんの作品

—全体的な仕組みのほかに、1回目と2回目で変更した部分はありますか?

(Yuqi)「実は2回目の試みからは参加してくれる方1人1人と連絡を取らせてもらってるんです。紛失防止という所もあるんですが、その人たちだけで進むんじゃなくて、こちらもそのやりとりに関わらせてもらいたいという思いがあったので」

(茂出木)「いざやってみると直接のコミュニケーションが生まれると、制作前からいい刺激を与え合えるんですよ。僕らの思いも伝えられるし、どういう思いで作ってくれるのか僕らも知ることができるので。このまま続けていくと日本中のいろんなクリエイターとUQiYOが出会えるんだよな、と思うと改めてワクワクしています」
(Yuqi)「我ながらですけど、すごく面白い企画ですよね(笑)」

—そのクリエイター同士がさらに繋がって、新たな関係が生まれたら面白そうですね。また、ファンとしてもアーティストとこういう風に関われること自体が珍しい。ところで、曲はどういうイメージで作ったんですか?

(Yuqi)「UQiYOってバンドが作ってる曲らしいよって、存在を知らない人がトランクを渡されても何だこれってなる可能性は高いと思うんです。なので、誰が聞いても良いっていう要素もちゃんとあって、でも媚びてる感じは僕らの作風ではなくなるのでバランスを取りながら、タイムレスな楽曲にするにはどの辺がいいだろうと悩みました。最終的には“旅をする”っていう要素が大きいなと思って、いろんな場所の風景などを連想させる音を盛り込んだ曲にしたかった。曲の始まりにさまざまな場所の環境音みたいなのが、どんどん流れるんです。それ自体がイントロのリフのようになっていて、これからいろいろな場所へ旅する感じが出せたらいいかなと思いました」

—茂出木さんは聴いた印象はいかがでしたか。

(茂出木)「すごく凝ってるなと思いました。当時、UQiYOは曲作りで外の音を収録してきてというのをよくやってるイメージで、その流れの集大成かなという印象でしたね。やはり各地を巡る旅ってのがUQiYOらしいし、それがスーッと馴染むような楽曲になってた。単純にもったいないなと思いましたね。このプロジェクトっていう縛りをつけちゃったのが(笑)。これは多くの人に聞かせたいなと思ったので」

—曲に関しては手に渡った人かライブでしか聞けないんですよね?

(Yuqi)「いや、札幌で最後にトランクを受け取って曲のリミックスをしてくれた人がラジオDJもしていて、番組で流してくれたりしてるんですよ。原曲とリミックスの両方を。なので北海道限定で知れ渡ってる可能性はありますね。僕らとしても番組自体も作品としたらルールに則っているので問題ないし、広がるきっかけになるから面白いですね」
音楽家 下川佳代さんの作品

—その予想外の広がりは面白いですね。

(茂出木)「そうですね。あと本当はHP内で作品だけを載せるのではなく、その参加者1人1人にインタビューできたら理想だと思っているんですよ。そこでDIYer(s)さんの取材のネタとしていかがですかね(笑)」

—確かに、DIYer(s)としてもいろんなクリエイターさんに取材できるのは面白いかもしれないですね。

(茂出木)「もしよかったら(笑)。僕自身が関わってくれた人たちのことをもっと知りたいなって思ってるんですよ」
デザインアトリエBLUEPOND 青池茉由子さんの作品
(Yuqi)「例えばですが、プロジェクトの1人目である北海道の青池茉由子さんも面白いインタビューになると思いますよ。もともと関西の老舗鋏鍛冶で補佐をしていた経験があるクリエイターの方で職人に対しての造詣も深いんです。僕たちのもう一つ別のプロジェクトのアニメーション作品“火づくり”の元となっているのが、その鍛冶屋さんなんです。そういう繋がりもあって1人目にお願いしました。今後さらに多様なメディアが関わってくれたら嬉しいですね。そして、どんどん楽しさと規模が膨れ上がってくれるのが理想ですね」
UQiYOとTWOTONEによる、トランクの中の新曲CDを人の手から人の手へ託して行ってもらい、日本最北の北海道から最南端の沖縄まで届けながら、クリエイター同士を繋げていく壮大なプロジェクト「151A_RT」。DIYを愛する読者諸氏としても見逃せないイベントないでしょうか。その動向は公式HPにて順次更新される予定とのこと。そして自分も参加したいという方は、編集部にご一報ください。ぜひ一緒にこのプロジェクトを盛り上げましょう。

INFORMATION

151A_RT PROJECT
HP: http://uqiyo.com/151a_rt/sp/

PROFILE

UQiYO
"日常を、心地よい非日常-浮世-にいざなう音楽ユニット"
2010年結成。Vo/Gt/ComposerのYuqi、KeyのPhantaoとDrのSimaの3人から成る、有機的で暖かみのあるエレクトロ音楽集団。北欧の澄んだ空気と日本の湿度が混ざり合い、本物の人間の心が宿った音楽。製作手法から届け方まで、毎回こだわり抜かれた質の高い音源と演奏。そして、ファンとの接点やコミュニティを、一から構築していく活動スタイルは、NHKクローズアップ現代、J-WAVE、Inter FM、TokyoFM、Natalie、Cinra含め多くのメディアが注目。2016年1月に発売されたMini Album「Black Box」では、元ちとせや、酒井景都など豪華ゲストボーカルを迎えて、今までになかった客層に波紋を広げています。

HP: http://uqiyo.com
TWO TONE
インタラクションデザイン出身のアートディレクター・茂出木龍太と岩城洋平で始めたデザインスタジオ。アートディレクションとデザインを軸とした、マーケティング活動のサポート、コミュニケーションデザイン、製作を行う。また、ウェブサービスやウェブサイト構築、スマートフォン向けアプリの企画、UXUIデザイン、映像の企画演出、コンテンツの企画編集、 CI/VIデザイン、グラフィックデザインをはじめ、舞台演出、イベント演出など、活動メディアは多岐にわたる。

HP: http://www.twotone.jp

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