経年劣化から経年良化へ。建材のプロに“木製”へのこだわりと聞いてみた

注文住宅のパイオニア、東京組。その強みは「オリジナル建材」にありということで、前編の記事では東京組のリノベーションの可能性を探ってみました。今回はその中でも青森県十和田市に巨大な工場を建設し、日本で唯一のライン製造を可能にした「株式会社 日本の窓」で作られる「木製サッシ」について、さらに掘り下げてみたいと思います。「気密性」「断熱性」「防音性」「水密性」「防犯性」と聞けば聞くほどメリットだらけの木製サッシ。そこで今回は、長く愛せる住まいづくりのために木製サッシからアプローチを続ける㈱日本の窓 佐藤正志さんにお話を伺いました。

公開日 2023.08.24

更新日 2023.11.20

経年劣化から経年良化へ。建材のプロに“木製”へのこだわりと聞いてみた

注文住宅のパイオニア、東京組。その強みは「オリジナル建材」にありということで、前編の記事では東京組のリノベーションの可能性を探ってみました。今回はその中でも青森県十和田市に巨大な工場を建設し、日本で唯一のライン製造を可能にした「株式会社 日本の窓」で作られる「木製サッシ」について、さらに掘り下げてみたいと思います。「気密性」「断熱性」「防音性」「水密性」「防犯性」と聞けば聞くほどメリットだらけの木製サッシ。そこで今回は、長く愛せる住まいづくりのために木製サッシからアプローチを続ける㈱日本の窓 佐藤正志さんにお話を伺いました。

木製サッシは日本の住まいを変えていく

経年劣化から経年良化へ。建材のプロに“木製”へのこだわりと聞いてみた
岩西:
まず東京組が木製サッシを扱い始めた経緯を教えてください

佐藤:
日本の住まいに適した建材を探すため、創業者が海外の建材市場を渡り歩き、最もフィーリングが合った国が「イタリア」でした。なかでもヨーロッパではスタンダードである木製サッシの素晴らしさに魅了され、早速輸入を開始しました。ただ、当時は鉄扉を取り付けるなどして告示で防火基準をクリアしなければならず、木製サッシを使ってもらえる物件は全体の1割に満たなかったと思います。
経年劣化から経年良化へ。建材のプロに“木製”へのこだわりと聞いてみた
そんな折、防火認定されているはずの多くのアルミサッシの防火性能が、認定基準を満たしていなかったという問題が発覚し、当時業界では大変な話題になりました。これまで「通則認定」と呼ばれる防火認定から、製品ごとに厳しく試験を受ける「個別認定」という方法に変更になったことでコストがアップ。アルミサッシの価格が2倍から2.5倍に値段が跳ね上がりました。

しかし、すでに契約を終えていたオーナー様にこの費用を負担させることはできず、東京組でも100棟ほどの追加費用を負担をすることに。このような業界の悪しき状況を改善しなければといった我々の使命感が、木製サッシ開発の後押しをしてくれました。

「日本」に、「青森」に、「杉」にこだわる

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岩西:東京組は木製サッシの工場を6年ほど前に設立しましたが、なぜ青森県という土地を選んだのでしょうか?

佐藤:
 創業者が青森県出身ということもあり「青森のブナの森を守る会」の発足やメガソーラーの建設などで、なにかと青森とは縁が深い土地でした。また、青森県の杉の保有率は「全国4位」。さらに当時は「間伐材」の活用に力を入れ始めていたころでもあったので、それを使って木製サッシをつくってみようと。

 しかし、当時「杉なんて柔らかい木なんかでつくったらすぐに腐るぞ」と大工さん含め周囲の評判はあまり良いものではありませんでした。確かに杉は確かに柔らかいのですが、その昔、日本家屋で使われていた高級建具は「杉」が多かったのです。ただ、取り扱いが難しいのも確か。木材は一般的に乾燥させなければ製品として使用できないのですが、中でも杉は乾燥し過ぎるとササクレ立ち、乾燥が未熟だとすぐに反るなどの「狂い」が顕著です。
経年劣化から経年良化へ。建材のプロに“木製”へのこだわりと聞いてみた
取り扱いが難しい杉ですが、「断熱効果」や「防火効果」に優れ、何と言っても日本人にとって馴染みのある質感と優しさはアルミサッシに代えがたいものがあります。また、木材は「夏目冬目」といって硬い層と柔らかい層が交互に折り重なり木目を作り出しています。それぞれが干渉することで、「熱」や「音」などを透過にくくしており、逆にアルミや鉄などはフライパンや鍋などに使われているように熱の伝導率が良く、どちらがサッシに向いているかは明白です。

取り扱いの難しさを補って余りあるほど、杉のメリットは豊富なのです。

「安くて良いもの」を提供するために

経年劣化から経年良化へ。建材のプロに“木製”へのこだわりと聞いてみた
岩西:国内での木製サッシの生産が珍しいうえ、さらに巨大な工場を建設まで建設した意図はなんでしょうか。

佐藤:
「安くて良いもの」でなければ普及は難しいものです。それを実現するには生産をライン化し量産化が必要になります。そこで、ライン製造を可能にするためイタリアのPB社のシステムを導入し、木造で50mx50mの巨大な自社工場を建設しました。
これによりメインのシステムであれば、1日60窓の生産が可能です。実際はサイズの異なるオーダーメイドが多いので40窓ぐらいが平均になるかと思いますが、それでも国内でこれだけの木製サッシを作れるのは弊社だけかと思います。
経年劣化から経年良化へ。建材のプロに“木製”へのこだわりと聞いてみた
また、杉材については、当初青森の間伐材は非常に安かったのですが、林業があまり盛んではなく「枝打ち(枝を切り落として成長させる)」などを行ってないなど、小径木で木材にした際に「節」が多く製品にするためにはデメリットがありました。「安かろう悪かろう」では元も子もないということで、現在は東北から北関東まで範囲を延ばして良質の杉材を仕入れています。末口で直径300mm、元口で450mmの大径木を使用し「芯去り」と呼ばれる芯を取り除き、且つ「節」の少ない材を使用することでクオリティの高い製品を実現することが可能になっています。

日本では馴染みのない「ドレーキップ窓」とは

経年劣化から経年良化へ。建材のプロに“木製”へのこだわりと聞いてみた
岩西:こちらで作っている木製サッシの特徴について教えてください。

佐藤:
「日本の窓」で作る木製サッシは、ヨーロッパではスタンダードな「ドレーキップ窓」になります。「内開き」と「内倒し」の2つの機能を併せ持つサッシとなります。この複雑な動きを可能にしているのが、ドイツで160年ほど前に開発された「グレモン錠」の構造です。
経年劣化から経年良化へ。建材のプロに“木製”へのこだわりと聞いてみた
これはEUで定められた同一の規格で作られているので、どのメーカー使っても決められた溝を掘りさえすれば設置が可能です。メーカーごとに規格やサイズが異なる日本のサッシ類とは違い、同じ条件のもとメーカーがデザイン・機能・品質を競うためより良い物ができやすい環境になっています。我々「日本の窓」ではイタリア製のグレモン錠を使用しています。レバーとロックが一体化している「グレモン錠」は、多点でロックすることができるので「気密性」や「防犯性」が非常に高いのが特徴です。ほとんど「クレセント錠」1箇所で施錠しているサッシとは比べ物にはなりません。

選べる自由度の高さ

岩西:「日本の窓」の木製サッシだけでも購入できると前回お伺いしました。また、サイズだけでなく色々と融通が利くようですが、どのようなオーダーが多いのでしょうか。

佐藤:
「日本の窓」の木製サッシは東京組で建てる住宅でしか使えないと思われがちなのですが、最近では東京組以外の現場に収める「外販」が多くなってきています。今年は東京組で6割、外販で4割と年々増加傾向にあります。お家を建てられる方、リノベーションを検討されている方が設計さんと一緒に来られ、実物を見ながらご相談を受けていています。
経年劣化から経年良化へ。建材のプロに“木製”へのこだわりと聞いてみた
サイズはもちろんのこと「木材」もお選び頂けます。木材に関しては95%が先程の国内の杉材で作っているのが現状ですが、まれに「ヒノキ」や「青森ヒバ」などでも作りますし、自産自消を希望されている方の「持ち込み材料」で作ることもあります。塗装についても、イタリア製のアクリル塗料を使用し特注色を含め数色からお選び頂けます。

 サイズに関してはオーダーメイドが多かったのですが、最近では「規格品」をオススメするようにしています。そのほうが「設計」も「納品」も早いからです。実際、フルオーダーされる方でも規格品と20mmほどしかサイズが変わらないなんてこともあり、設計さんと相談して規格品に変更するということが増えてきています。
経年劣化から経年良化へ。建材のプロに“木製”へのこだわりと聞いてみた
マンションなどサッシに手をつけることができないリノベーションの場合には、「インナーサッシ」をオススメしています。もちろんこちらもサイズオーダーが可能で、既存のサッシの枠を利用して取り付けることが可能です。インナーサッシは内開き・内倒しになるので既存のサッシと干渉することもありません。

また、インナーサッシは2回開けるのが面倒だと言われますが、むしろ「気密性・防結露」や「断熱効果」が高くなる上に、木製なのでお部屋の雰囲気も随分と変わります。

メンテナンスの手間こそがポイント

経年劣化から経年良化へ。建材のプロに“木製”へのこだわりと聞いてみた
岩西:木製品となると寿命やメンテナンスが大変なのではと思っている人も多いかと思います。どのような対策を取られているのでしょうか?

佐藤:
当然木材なので劣化は否めません。しかし、メンテナンスを施せるのも木材の特徴です。再塗装の工事もできますし、「塗装キット」も用意しているのでDIYでの再塗装も可能です。ヨーロッパでは家をセルフビルドする人が多く、メンテナンスができる素材と構造は大変重要です。「日本の窓」の木製サッシも、どの部分が壊れても交換が可能であり、メンテナンスが出来るものを選択することが、より永く快適な住まいづくりを叶えてくれます。

まとめ

経年劣化から経年良化へ。建材のプロに“木製”へのこだわりと聞いてみた
おなじみのアルミサッシとは全く異なる素材のためか、見た目ばかりに注目をしてしまっていた「木製サッシ」。しかし、見た目よりもその機能に深く関心しつつ、温暖化が凄まじい近年なぜこのような優秀なサッシを日本の住宅で推奨されないのか不思議でなりません。ヨーロッパの家の寿命は150年、アメリカで70年、日本では25年ほどと言われています。
メンテナンスフリーな素材は最初のうちは良いですが、いざ壊れると修理をすることも難しい側面も。手入れが可能な建材を使ってメンテナンスしていけば、家はアンティークとなり、文字通りサステイナブルなものとなっていきます。時間の経過とともに資産価値が上がっていく「経年美化」なヨーロッパの住宅と、価値が目減りしていく「経年劣化」な日本の住宅との差は、このような建材からくるのではないかと感じさせられた取材でした。

取材・執筆 岩西剛

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