リノベと地域で繋ぐ憩いの場。築87年の古民家カフェ『蓮月』

東京都大田区は池上。下町の情緒が残るこの街に、昭和初期から続くお蕎麦屋さんをリノベーションしたカフェがあります。87年もの間、街を見守り、地域に愛されてきたこの建物。「人の優しさに触れられる場所でありたい」と語るオーナーの気持ちをそのまま反映したような、温かく優しい空間が広がっていました。

公開日 2020.07.30

更新日 2023.04.20

リノベと地域で繋ぐ憩いの場。築87年の古民家カフェ『蓮月』

足を踏み入れると、時が止まる。やさしい空間

リノベと地域で繋ぐ憩いの場。築87年の古民家カフェ『蓮月』
東急池上線、池上駅から徒歩5分。下町の風情を楽しみながら商店街を抜けた先に、一軒だけ、まるで時が止まったかのような建物がありました。この建物こそが、今回お邪魔する『古民家カフェ蓮月』。昭和の香りが色濃く残る佇まいに心を震わせながら、蓮の花があしらわれたのれんをくぐります。
リノベと地域で繋ぐ憩いの場。築87年の古民家カフェ『蓮月』
一歩足を踏み入れると、まるでタイムスリップしてしまったかのような昭和レトロな内装。昔ながらの造りをそのまま残した小上がりに、当時の趣を様子を想起させるカウンター席。思わず感嘆の声が漏れてしまうほど魅力に溢れた空間が広がります。昭和初期に建てられて以来、地域を見守り、愛されてきたというこの蓮月。そののれんの向こう側を隅々まで見せていただきました。

※取材中はマスクを着用しています。撮影時のみマスクを外し、写真の撮影にご協力いただきました。

築87年、お蕎麦屋さんがカフェになったワケ。

リノベと地域で繋ぐ憩いの場。築87年の古民家カフェ『蓮月』
『古民家カフェ蓮月』の正体は、元お蕎麦屋さん。1933年に設立されて以来、地域の人々が集うお蕎麦屋さん『蓮月庵』として愛されてきたそうです。それが、2014年に先代のオーナーが高齢のため、惜しまれながらも引退。建物の保存が危ぶまれる状態となり、地元の人々は、どうにか蓮月を残せないものかと掛け合い、頭を捻りました。
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そこでこの建物の救世主となったのが、『古民家カフェ蓮月』代表の輪島(わじま)さん。元々、池上駅から2駅ほど離れた蒲田駅で古着屋さんを経営されていたのですが、蓮月庵の保存を希望する地域の人々の声に応える形で、この店のオーナーとなったそうです。当初は内装にも手を加え、近代的なカフェにすることも考えたそうですが「地域の人が保存を望んでいるのは『蓮月庵』だ」と考え、できる限り当初の趣を残したまま、たくさんの人に来てもらえるカフェを作ろうと思い立ち、今の形を作り上げました。
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店内には蕎麦屋時代のメニュー表が。手前に見えるのは昭和初期のもので、通貨はなんと銭!今では出会うことのできない通貨の名前に、建物の歴史を感じます。
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お蕎麦屋さんらしい趣を残したボックス席もありました!当時から使われているのであろうすりガラスには“そば”の文字が。思わず「ざるそば、1つください!」と言ってしまいそうな雰囲気です。

“お山”を目指す旅人を受け入れる場所

リノベと地域で繋ぐ憩いの場。築87年の古民家カフェ『蓮月』
この『蓮月』がある池上エリアは、門前町として栄える地域。国指定の重要文化財にも指定されているお寺、池上本門寺(通称“お山”)を中心に、商店が軒を連ねるこの街、かつては参拝のために日本各地から人々が訪れる観光地でもありました。地域の人のみならず、本門寺を目指し、遠路はるばるやって来た人々を受け入れ癒していた場所も、この『蓮月庵』だったのです。
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建物を二階へあがると、広い座敷のスペースが。お蕎麦屋さんの時代は旅籠屋(はたごや)と言って、宿泊施設、また、結婚式などのイベントスペースとして使用されていたのだとか。これまで人々の多様なドラマを受け入れて来た場所だからなのでしょうか。初めて訪れたのにも関わらず、田舎の祖父母の家に遊びに来たかのような安心感を覚える空間です。
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窓には、当時の情緒を感じさせる“雪見窓”が採用されています。座った際、視線の先に外の風景が見えるように設計されており、当時はここから池上本門寺を臨むことができたのだそうです。腰を下ろして外に目をやると、参拝を目指し、やっと“お山”にたどり着いた人々の期待に満ちた気持ちに触れることができそうな気がしました。
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二階スペースのテーマはずばり“文化”。カフェスペースとしてはもちろん、レンタルスペースとしても利用されており、地域の子どもたちに向けた書道教室やドラマ・映画の撮影などで幅広く活用されています。また、地域の学生が自習をするためのスペースとして貸し出し、ドリンクを半額で提供する“放課後自習室”という太っ腹な取り組みも。自習室を利用し無事志望校に合格した学生が、その後アルバイトとして蓮月に勤めたという、なんとも心が温まるエピソードも伺うことができました。
古民家の雰囲気を活かして、夏には毎年恒例の怪談イベントも開催されているのだとか。いや、ムードが出過ぎです…。でも、ぜひ参加したい!
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いつの間にかできていた雨漏りのシミも、ここではインテリア。「人間の肌にシワができるのと同じで、ついてしまった汚れも全部歴史。この建物の人生を表しているんです」と輪島さん。書道教室で畳や襖についてしまった墨汁のシミも、『蓮月』の歴史として、あえてそのまま残すことにしたそうです。
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ちなみにこの御座敷スペースは、こんな風にゴロ寝をしてもいいのだとか!(もちろん、他のお客様への配慮は忘れずに。)これなら、子ども連れでも安心して利用できますよね。イメージは銭湯の待合室ということで、リラックスしながら大切な人を待つような、“日常の中にある愛する心”を感じて欲しいという輪島さんの想いが込められています。

そして再び一階へ

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そして舞台は再び一階へ。まだまだ二階でのんびりしたい気持ちを押さえながら、階段を降りていきます。
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二階が“文化”だったのに対し、一階のテーマは“文明”。元々は蕎麦屋の先代の居住スペースだったというこの部屋は、いまではテーブル席として使われています。木の温もりを感じる空間を抜けると、青々と揺れる木々が植えられた中庭がありました。
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誘われるようにして庭に出ると、『蓮月』の象徴、蓮の花が可憐にお出迎え。運良く、この日は満開に咲いた姿を見ることができました!
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お店の脇道から臨む中庭席。緑に囲まれ、そよ風を感じることができるこの席の気持ちの良さは、思わず都会にいることを忘れてしまうほど。
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店内では衛生対策を考慮の上、オーダーはセルフ形式となっています。気さくな店員さんと話を楽しみながら、オススメの商品を教えてもらいました。
リノベと地域で繋ぐ憩いの場。築87年の古民家カフェ『蓮月』
悩んだ末、取材班が注文したのはクリームソーダ。それぞれ、緑色は青リンゴ味、赤色はラズベリー味と、なかなか出会うことのない珍しいフレーバーです。人工的な甘さではなく、果実そのままの優しい風味のソーダの上に乗っているのは、シャリシャリとした濃厚なバニラのアイスクリーム。思わず「美味しい〜」という声が漏れてしまう、ふたつとない味わいでした。開放的な庭を臨みながら飲むクリームソーダはまさに格別。どこからか、夏の足音が聞こえてくるようです。

これからも地域の“やさしさに触れる場所”として

リノベと地域で繋ぐ憩いの場。築87年の古民家カフェ『蓮月』
これまで、87年もの間地域を見守り、そして地域に愛されてきた蓮月。日々の生活に疲れたとき、人の優しさに触れ、嫌なことをリセットできる空間として、これから先もこの場所にあり続けることを目指しています。

しかし、そんな蓮月に試練が立ちはだかります。2019年の大型台風による建物の損傷、そして新型コロナウイルスによる営業自粛。甚大な被害を受け、カフェの経営も建物の存続も危ぶまれる状況に陥ってしまいました。昭和から平成の時代へと受け継いだこのカフェを、令和も、そしてこの先もずっと残していくために、現在クラウドファンディングを実施中です。
建物は時間の経過とともに、建てられた当初とは使用の目的が変わっていくことがありますが、その変化への順応を可能にしてくれるのがリノベーションの魅力。古くなったから、目的に沿わないから、といってなくしてしまうのではなく、時代に適応する形で手が加えられていく様子に、リノベーション工事の醍醐味を感じることができました。蓮月が今回の危機も乗り越え、次の世代にも繋がれていくことを切に願います。
リノベと地域で繋ぐ憩いの場。築87年の古民家カフェ『蓮月』
人々の想いを背負い、変化を許容しながらも、世代を超え愛されてきた蓮月。思わず時が経つのを忘れて過ごしてしまう、やさしい空間でした。都心から電車でわずか数十分という立地ですので、下町の街並みを楽しむがてら、訪れてみてはいかがでしょうか。これまで建物が見届けてきたのであろう、たくさんの愛の歴史を感じることができるかもしれません。

INFORMATION

古民家カフェ蓮月
https://rengetsu.net/

〒146-0082
東京都大田区池上2-20-11
(東急池上線「池上駅」より徒歩8分)
TEL 03-6410-5469

営業時間
11:30〜18:00

Free Wi-Fiあり

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