洋服の手作りを身近にする、ソーイングブランド「3min.」の立役者たち/CIRCLE of DIY Vol.20
誰でも手軽にできる服作りを提案するソーイングブランド「3min.」。そんな気鋭のプロジェクトを手がけるファッションデザイナーでありテキスタイルデザイナー飛田正浩氏とグラフィックデザイナー長嶋りかこ氏に、服作りにかける思いを伺いました。
公開日 2017.06.23
更新日 2022.01.11
2つのキーワードと、2人の試行錯誤
――ズバリ、「3min.」のテーマは何でしょう?
(飛田)「手軽さは一つのテーマですね。それこそ名前の如く3分間クッキングならぬ3分間ソーイングみたいに手軽に楽しんでもらえたらと思っています。この『3min.』っていうブランド名は長嶋さんのアイデアなんですよ」
(長嶋)「服作りをお客さんがイメージしやすくするために料理に例えてみたらどうだろうと思って、3分クッキングから着想を得ました。だからもう一つのテーマは料理ですね。イベントでも、本当に3分で出来るの?って質問してくれる人も多くて、入り口としてのキャッチーさは狙い通りです。ただ、実際は3分で出来るのではなく、そのくらい手軽という意味なんですけどね」
――3分クッキングも実際は3分では完成しませんしね。テーブルの下から、こちらが冷蔵庫で寝かしたものです、って取り出しますし。
(長嶋)「そうそう(笑)。でも結果的に、イメージの誘引を狙っています。名前を決めることで、活動の全体を包める風呂敷ができました」
アトリエ内にはたくさんの布が。飛田さんの手によって、どんな生地に生まれ変わるのか楽しみです。
――名前一つにも様々な思案を巡らせているんですね。では今回のプロジェクトで苦労した点は何でしょう?
(飛田)「僕はファッションデザインの方法が今までどおりにはいかなかったところです。これまでは出来上がった服を想像してデザインしていたんですけど、今回はお客さんが縫ってみたくなるデザインにしないといけませんでした。それって料理人がレシピ本を書く、みたいな感覚だと思うんです。しかも簡単に作れるものを。普段デザインしている中で、簡単に作ろうなんて考えたこと無いですよ。むしろいい服を作ろうとしてだんだん難しくなるのが普通ですから。他にも、例えばワンピースを一着縫おうという時に、120センチの布を広げられるテーブルが一般の家庭にあるのか?とか、裁断する時はハサミだからなるべく直線のほうがいいだろうとか、お客さんの立場で考えるのがマストでした。試行錯誤の連続でしたよ」
――今までと違った観点でデザインしているということは、spoken words projectのコレクションラインとは大きく差別化しているということでしょうか?
(飛田)「はっきりと分けているわけではないです。自分のコレクションラインを考えている中で、『3min.』にも使えると思って提案するときもあります。ただ、縫いやすさ重視という制限がある以上、通常のコレクションのように自由にできないシーンにはどうしても遭遇しますね」
(長嶋)「でもやっぱりどちらも飛田さんが手がけているから、ブランドの流れみたいなものが根幹にあると思います。飛田さんのブランドの服を着ても、『3min.』の服を着ても、同じ血が通っている感じがします」
(長嶋)「でもやっぱりどちらも飛田さんが手がけているから、ブランドの流れみたいなものが根幹にあると思います。飛田さんのブランドの服を着ても、『3min.』の服を着ても、同じ血が通っている感じがします」
――同一人物でも他人でもなく、兄弟って感じですか?
(長嶋)「そうかもしれないですね。それに飛田さんの作る絵柄自体がやっぱり唯一無二なんです。飛田さんの場合は、一つ一つ手染めやろうけつ染め(※溶かした蝋を生地に染み込ませて行う染色技法のこと)をしてデザインしているんですけど、これってすごく珍しいことなんですよ」
(飛田)「こんなことやってないよ、もっと喧伝すべき、ってよく言われます(笑)」
(飛田)「こんなことやってないよ、もっと喧伝すべき、ってよく言われます(笑)」
アトリエ内には鋭意製作中の生地が。
(長嶋)「中には外部の職人さんに発注する人がいるみたいですけど、それを自分たちの中で、しかもいい状態で作り出している人は他にいません。それをクオリティそのままに、コッカさんの技術で大量生産できたのが『3min.』。だから根底に同じ血が流れているって感じるんだと思います」
(飛田)「確かに『3min.』はコッカさんの印刷技術あってのものだと思いますね。そもそも僕自身がプリントとか考えずにデザインするわけですよ。だから初めはシルクスクリーンでろうけつ染めのグラデーションを表現するのは無理だろうと思ってたんです。でもコッカさんから届いたサンプルを見た時は、再現性の高さに本当に驚きました。いい意味で予想を裏切られましたね」
(飛田)「確かに『3min.』はコッカさんの印刷技術あってのものだと思いますね。そもそも僕自身がプリントとか考えずにデザインするわけですよ。だから初めはシルクスクリーンでろうけつ染めのグラデーションを表現するのは無理だろうと思ってたんです。でもコッカさんから届いたサンプルを見た時は、再現性の高さに本当に驚きました。いい意味で予想を裏切られましたね」
左の生地が手染め(オリジナル)で、右の生地がシルクスクリーンによるプリント。ひと目見ただけでは違いがわからないほど高い再現度です。
――今手元にあるのが当時のサンプルですね。本当にどちらが手染めかわからないです。
(飛田)「なんでも16版のいわゆる特色刷りだとか。僕は生地の上に一度ゴールフラッグを立てているから、目指すクオリティは明確です。そこは良いものを作れる一つの物差しになっているのかなって思いますね」
――なるほど。では次に長嶋さんに苦労したことをお聞きします。
(長嶋)「低予算の中でどうすればお店に並んだ『3min.』の存在感を引き出せるのだろう、というのは念頭にありました。例えば、配送用のダンボールをそのままディスプレイ出来るようなデザインにしたり、型紙の裏をポスターにして宣伝してもらったりと商品そのもの、あるいは包んでいるものの佇まいでどれだけ他商品との違いを見せられるかと工夫しましたね」
――「3min.」は自分で欲しい服を作ってもらうというソーイングブランドですが、自分で作ることを重視した狙いとは何ですか?
(長嶋)「単純に、自分の作ったモノって愛着がわくじゃないですか。そうすると、自分で作っていないモノにも愛着が湧くんじゃないかなって思いますね。そのモノが出来るまでにどんな工程を踏んだのかとか、それまで見えなかった部分が想像できるんじゃないかと思って。製品が材料から自分の手に届くまでの過程って、今はすごくショートカットされていますよね。だからこそ、その見えない部分を自分で体感できる部分に尊さがあると思います」
――確かに、見えないものが見えるようになることで、新しい観点で物事を捉えられるきっかけになりますね。
(飛田)「そうですね。僕も身の回りの生活を眺めてみていつも感じるんですけど、布製品って本当に多いんですよ。そしてそれが劣化してしまうと、次はどこの商品を買おうかとか、あそこの商品が可愛いとか思うかもしれない。でも、そこで作ってみたらどうだろうと考えて欲しい。それが極端な話、雑巾でもいいですし、裾のほつれを直すだけで良いのかもしれないです。なにかモノを作ってみようと思うきっかけとして、身の回りの布製品からスタートしてみると、やりやすいんじゃないかなって思います。そのきっかけに『3min.』がなったらうれしいですね」
未来の「3min.」像とは?
――では次に今後の「3min.」について。6月末の展示会では新作を発表するとのことですが、テーマみたいなものはありますか?
(飛田)「今回は秋冬ということで、ゆっくり、のんびり、温かく過ごすなどから連想して“夜”にたどり着きました。ただ夜と言ってもダークな質感のものではなく、夜の楽しさとか、神秘性、幻想的な街並みといったものを表現できたらなと思っています」
(長嶋)「前回は“サラダ”でしたよね。もともと3分クッキングから食品や料理が共通するテーマではありましたしね」
(飛田)「そうそう。でも今回は夜と食を無理に結びつけることもないかなと思って、華やかな夜の街に特化してみました。あとはテーマを考えている時にフィッシュマンズの『ナイトクルージング』を爆音で流していたことも影響受けているかも(笑)」
(長嶋)「前回は“サラダ”でしたよね。もともと3分クッキングから食品や料理が共通するテーマではありましたしね」
(飛田)「そうそう。でも今回は夜と食を無理に結びつけることもないかなと思って、華やかな夜の街に特化してみました。あとはテーマを考えている時にフィッシュマンズの『ナイトクルージング』を爆音で流していたことも影響受けているかも(笑)」
――今回の新作も主なターゲット層は女性ですか?
(飛田)「洋服としての提案は女性がメインですが、ゆくゆくは男性も視野にいれるつもりです。ただ、生地自体に関して言えば、性別を意識したことはないですね。『3min.』に関して言えば、多くのものを網羅したいと思っているので、性別はもちろんですし、生地として服以外の用途でも使って欲しいですね。例えば、カーテンやソファみたいにインテリアとも相性がいいと思っています」
(長嶋)「インテリアにも使えるのは素敵ですよね。『3min.』の生地自体は、飛田さんのコレクションラインと比べて柄もシンプルなモノが多いですし」
(長嶋)「インテリアにも使えるのは素敵ですよね。『3min.』の生地自体は、飛田さんのコレクションラインと比べて柄もシンプルなモノが多いですし」
――用途を選ばないとなると、無限の可能性を感じますね! では最後に、「3min.」はどのように成長、展開していくと考えていますか?
(飛田)「まだ僕の中だけの思案ですけど、ランウェイを使ってショーをやってみたいです。ランウェイって聞くと高級ブランドがやることといった先入観がありますが、あえてそれに向き合ってみたいなと。手作りの服イコールかつてのイメージを払拭したいので、オシャレとかハイファッションや高級色を打ち出していきたいです。もちろん、『3min.』の手軽さみたいなものは残しつつ。身近な存在感とハイファッションの両立に挑戦してみたいなと思っています。他にもDIYのニュアンスを持ってワークショップもいいですね。人に見せることを意識してやってみたいのかもしれません」
――大きなイベントを開催し、そのなかで魅力をアピールしていきたいということですね。
(飛田)「『3min.』の生地自体はどこに持っていっても恥ずかしいものではないと自信を持っています。うちのブランドの既製品よりも価格は安くなっていますし、コレクションラインと比べてもクオリティの遜色は無いはず。そんな『3min.』の服をステージの上でリアルタイムに裁縫して、それを着たモデルがランウェイを闊歩するというのも素敵ですね」
(長嶋)「じゃあ、ぜひそれを3分間でやってもらいましょう!」
(飛田)「となると本家よろしく、完成したモノがこちらですってテーブルの下から取り出さないと間に合わないよ(笑)。でも、やってみたらきっと盛り上がるだろうね」
(長嶋)「じゃあ、ぜひそれを3分間でやってもらいましょう!」
(飛田)「となると本家よろしく、完成したモノがこちらですってテーブルの下から取り出さないと間に合わないよ(笑)。でも、やってみたらきっと盛り上がるだろうね」
気鋭のソーイングブランドとして、手芸や手作りの服に対する既成のイメージを変えようと挑戦する「3min.」。手作りの魅力、素晴らしさを発信し続けるその姿勢には、ファッションとしてだけでなく、良いプロダクトを作り出そうとするクリエイターや職人の気質が垣間見えました。今後のさらなる動向に目が離せません!
INFORMATION
PROFILE
飛田正浩(右)
ファッションデザイナー
1968年埼玉県生まれ。多摩美術大学卒業。在学中からspoken words projectとしてファッションのみならず多方面で活動を開始。卒業後、ファッションブランドspoken words projectを立ち上げ、手作業を活かしたテキスタイルデザインで各方面から注目を集めている。
ファッションデザイナー
1968年埼玉県生まれ。多摩美術大学卒業。在学中からspoken words projectとしてファッションのみならず多方面で活動を開始。卒業後、ファッションブランドspoken words projectを立ち上げ、手作業を活かしたテキスタイルデザインで各方面から注目を集めている。
長嶋りかこ(左)
グラフィックデザイナー
1980年11月11日生まれ。2003年武蔵野美術大学視覚伝達デザイン科卒業。2014年デザイン会社「village®」設立。グラフィックデザインを基軸に、ブランディング、CI、VI、プロダクトデザイン、パッケージデザイン、エディトリアルデザイン、サイン計画、アートディレクションなどを手がける。
グラフィックデザイナー
1980年11月11日生まれ。2003年武蔵野美術大学視覚伝達デザイン科卒業。2014年デザイン会社「village®」設立。グラフィックデザインを基軸に、ブランディング、CI、VI、プロダクトデザイン、パッケージデザイン、エディトリアルデザイン、サイン計画、アートディレクションなどを手がける。
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