金子裕亮さんのサインペインティングDIY
素材にフリーハンドで、デザインされた文字やロゴを直接描く技法=サインペインティング。日本ではまだ馴染みは薄いかもしれないが、手仕事ならではのぬくもりや個性が感じられる、まさにDIYにぴったりの技法だ。現在、サインペインティングの世界で活躍中の金子裕亮さんに、その魅力とだれでもできる簡単なサインペインティングDIYを聞いてみた。
公開日 2015.07.23
更新日 2022.01.07
サインペインター・金子裕亮さんの仕事
アメリカ・カルフォルニア周辺では古くからカルチャーとして根付いており、今でもショップの店頭や標識など街中で見ることができるサインペインティング。そのフリーハンドならではのぬくもりが、いま日本でも注目されはじめている。
今回のDIYerは、雑誌『POPEYE』のタイトル文字を手がけたことでも知られ、サインペインターとして、めきめき活躍の幅を広げている金子裕亮さん。美大卒業後、エディトリアルデザインの会社で働いていた金子さんがサインペインティングを本格的に始めたのは5年前。
「もともと文字の組み方とかは好きでした。その当時は絵も描いていたんですけど、そこから単純に絵を引いて、文字だけでやってみようかなと思って始めたんです」
金子さんがタイトル字を手掛けた雑誌『POPEYE』2013年1月号・4月号
“ルール”のない気軽な文字アート
使用する道具は主に筆(ブラシ)とエナメル塗料などで、木材や鉄材、アクリル、ガラスなど、様々なものに描くことができるのが特徴。看板にはもちろんのこと、棚やミラーといったインテリアや、Tシャツ、バッグなどの衣料アイテムに用いられることも。日本では、店名のロゴをショップのガラス窓に描くといった事例も増えている。
金子さんが手がけた「JOUNAL STANDARD FURNITURE」店舗ロゴ
各職人たちによって受け継がれたサインペインティングには、いわゆる“ルール”といったものがない。決められた文字を描くことが本来の仕事ではあるが、特に個人的なインテリアに使用するものなどは、個性やセンスを活かし、好きな文字を好きなように自由に描けば良い。筆と絵の具だけで手軽に始められるので、DIY初心者でも気軽にチャレンジできるだろう。
金子流サインペインティングのこだわりとは
「僕はYouTubeでサインペインティングを勉強したようなものなので…」と笑う金子さん。独学で始めたこの仕事だが、デザイナー出身ならではのこだわりがある。
「(サインペインターには)いわゆるフォントが好きな人は多いですけど、僕はそうでもないんです。このフォントが好き、というよりも、今はこういう扱い方をするのが好きとか、ソフトな感じが好きとか、そのときどきのマイブームがあって。イメージで描くというか、文字も絵を描いている感覚と同じなんですよね」
マンション二部屋分を4人でシェアしている作業場。写真は金子さんのデスク
決まった描き順もないため自由な表現に見えるが、仕事となればもちろん制約も多い。例えばキャンペーンの名前や会社のロゴの場合、依頼者から送られてきたイメージ写真や風景画などを参考に、イメージを考えるところから作業は始まるという。その作業工程はまさに“アーティスト”だ。
サインペインティングは下書きも“重要”
制作過程にも、独自のこだわりが垣間見える。「お店の壁やガラスなどに現場で描くことが仕事なので、フリーハンドで書くこともありますが、基本的には下描きの準備をしています。その作業がすごく地味で大変ですね」と金子さん。
サインペインティングの「下描き」は、小さなピザローラーのような『パウンスホイール』という道具で、元のデザイン画をなぞり穴をあけていく。それを現場で実際にペイントするガラスなどに張り、チョークの粉が入った「パウンスパッド」という黒板消しのような道具で、張った紙の上からぽんぽんと叩く。するとガラスに粉で下描きを転写できる仕組みだ。
2015年2月発売槇原敬之「Lovable People」CDジャケットも金子さんのサインペインティング
サインペインティングで簡単DIY!
それではさっそく金子さんに教えていただいた、サインペインティングで簡単にできるオリジナルDIYアイテムを紹介しよう。今回は、手がけるのは木製フォトフレーム、そしてハンガーの2種類。どちらも身近にある100円均一ショップでも手に入れられ、サインペインティングの特性が活かせるアイテムだ。
簡単サインペイント~木製フォトフレーム編~
■用意する材料、道具
・木製フォトフレーム(両面ガラス)
・エナメル塗料
・うすめ液
・レタリングブラシ 太さ違いで3本(毛足の長いものがおすすめ。一本で長い線が描けて途中で途切れにくいため、はけ目が出にくい)
・小さな紙コップ(塗料とうすめ液を混ぜる用)
・平たい木の棒(塗料とうすめ液を混ぜられるものなら何でも可)
■作り方
1. 下描きを描く。(方眼紙を使うと太さをマスに合わせられるので便利)
2. 紙コップにエナメル塗料と、うすめ液を適量入れて混ぜる。(塗料が水のように流れない程度)
3. 下描きした紙にガラス板を乗せて、下描きにあわせてペイントしていく。(ガラス板がはずれないようにマスキングテープで止めるとよい)
4. 3を乾かし(30~40分ほど)、完全に乾いたら、次に白のエナメル塗料とうすめ液を混ぜ、上書きする部分をペイントする。
5. 同じように4を乾かし、さらに色を重ねていく
6. フレームに入れれば完成。
サインペインティング練習にも最適の、オシャレインテリア小物が完成。色を重ねることで、立体感が出るのがサインペインティングの特徴。写真を入れて文字を上書きしても良いかも!
簡単サインペイント~木製ハンガー編~
■用意する材料、道具
・木製ハンガー
・エナメル塗料
・うすめ液
・筆(毛足の長いものがおすすめ。一本で長い線が描けて途中で途切れにくいため、はけ目が出にくい)
・小さな紙コップ(塗料とうすめ液を混ぜるときにあると便利)
・平たい木の棒(塗料とうすめ液を混ぜられるものなら何でも可)
■作り方
1. 下描きをシャープペンなどで直接ハンガーに描く。
2. 紙コップに青のエナメル塗料と、うすめ液を適量入れて混ぜる。(塗料が水のように流れない程度)
3. Coldの文字を、下描きにあわせてペイントしていく。
4. 続けて白のエナメル塗料とうすめ液を混ぜ、3を縁取るようにペイントする。
5. Hotの文字も、同じように赤のエナメル塗料と、うすめ液を適量入れて混ぜ、下描きにあわせてペイント。乾いたら白で赤い部分の左側だけを縁取るようにペイントする。
6. それぞれ乾かしたら完成。
白で文字を縁取ることで、よりクールなイメージのDIYアイテムに。木との相性もバッチリなので、テーブルやタンスに直接書き込んで楽しんでもOK。
サインペインティングの魅力とは?
「作業自体もおもしろいですけど、筆とかペンキとか金箔とか、道具を集めるところからおもしろい(笑)。まだまだほしいものはいっぱいあって。ほぼ趣味みたいになっていますね」
そう語る金子さんの仕事場には、たしかに数々の道具や材料が所狭しと並んでいる。なかでも「この缶がほしくてサインペインティングを始めたところもあります(笑)」というお気に入りが、『1ショット』というアメリカブランドのエナメル塗料。日本でもインターネットで買えるという。
金子さんが使用しているエナメル塗料『1ショット』。並べるだけでインテリアにもなるデザイン
金子さんが描くサインペインティングの未来
日本でもサインペインティングの用途は広がりつつあるが、まだまだアメリカやヨーロッパのそれとは異なるという金子さん。「日本でもっとサインペインティングを広めて、馴染みのあるものにしていきたい」と語る。
「サインペインター自体も増えてはいるんですが、まだ扱い方がもの珍しいジャンルで。たとえば、ショップ一店鋪でロゴだけ描いたら「一生大事にします」という感じで終わることが多い。それはそれで嬉しいし、間違ってはいないのですが、本当はもっとラフに使ってくれていいんですよ。たとえば、セールのとき、“何パーセントオフ”と描いて、終ったら消しちゃうとか。アメリカだったら、そういう扱いもよくあります。どんどん変えてもらったほうが単価も安くできるし、いろんなことがもっとできるんじゃないかなと」
「どんどん変えていく」という発想で、季節ごとにインテリアのデザインをちょっとずつ変えるのも良い。その時の気分を生活の中に取り入れる気軽なDIYとして、サインペインティングを楽しんでみてはいかがだろうか。
■YUSUKE KANEKO
多摩美術大学卒業後、エディトリアルデザイン会社での仕事を経て、サインペインターに転身。DAMKY signs(ダンキーサインズ)として活動中。ショップロゴやディスプレイ、CDや雑誌のタイトルロゴ、Tシャツなど、さまざまなサインペインティングを手がける。
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