“素材のプロが聞く”!古民家リノベに学ぶ『フローリング』のこだわり方

住まいづくりは一生に何度もない高額なお買い物。だからこそ慎重さと“こだわり”をもって望みたいものです。ですが、そんなこだわりは時として選択肢や視野を狭めてしまうことも!今回は、元マテリアルバイヤーでもある岩西氏が古民家リノベーションの現場に突撃。実際にこだわりを突き通した事例から、“住まいのこだわり方”を考えます。

公開日 2023.05.26

更新日 2023.05.26

“素材のプロが聞く”!古民家リノベに学ぶ『フローリング』のこだわり方

オシャレは足元から!“フローリング”へのこだわり

“素材のプロが聞く”!古民家リノベに学ぶ『フローリング』のこだわり方
「オシャレは足元から」と昔から良く言われていますが、ついつい人は視線を集めやすいところから注力したくなるものです。足元という目線から少し離れたところにまで気を遣うことが重要で、またそこに「こだわり」を持つことがオシャレの秘訣ということなのかもしれません。だとすると住まいにおいて「フローリング」はまさしく足元。
 そこで今回は千葉県長生郡で古民家をリノベーションし、こだわりの「フローリング」を導入した杉﨑さんにお話を伺いました。奥様の前職はインテリアマテリアルを扱うお仕事をされていたこともあり、住まいに使用する素材には並々ならぬこだわりがあるようです。
“素材のプロが聞く”!古民家リノベに学ぶ『フローリング』のこだわり方
フローリングと一口に言っても、木目調プリントを施したビニール製の「クッションフロア」や、合板に薄い木材を貼った「複合フローリング」。木材をつなぎ合わせた「ユニフローリング」、そして天然木から作られる「無垢フローリング」と、住宅で使われるフローリング材は概ね4種類ほど。今回取材した杉﨑さん宅は、あえて中でも価格が高く手間もかかる「無垢フローリング」をオーダーメイドしました。その魅力や理由とは...?

そもそも、フローリングはどこで作れるの?

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今回お願いしたフローリング加工をするための「モルダー」

>杉﨑さん
 フローリングは普通の木工所で作ることは難しく「モルダー」という特殊な機械を持っているところにお願いしなくてはなりません。このモルダーという機械は、板材を通すと「サネ付け(両サイドの凸凹)」と「反り止め(フローリング裏の加工)」を同時に加工できるものだそうです。この機械でなければある程度の量が必要となるフローリング材は作ることができません。今回は前職のつながりから50平米という小ロットながらも対応してくれた神奈川の某工場にお願いして、オーダーメイドが実現しました。

オーダーメイドで作るとなると値段が気になります。既製品に比べてどれくらいで作れるのでしょうか。

>杉﨑さん
 価格は、今回作ったフローリングに近い既製品と比べると3割以上は高くなりました。価格は工場によっても違いますし、材料によっても変わってきます。フローリングはある程度量が必要になるので、3割高くなると全体で結構な金額となります。しかし、今回壁の漆喰は自分たちでDIYすることにしたのでそこで予算の調整ができました。
 オーダーメイドを考えている方は、モルダーを持った工場を見つけてダメ元で聞いてみるもの良いかも知れません。

素材選定の基準はどのように?

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採用した北海道産のミズナラ

>杉﨑さん
子供部屋には雰囲気も手触りも温かみのある針葉樹の「杉」を使いました。一方リビングや廊下には家具との相性を考え硬質で使うほどに味わい深くなる広葉樹の材からと考えていました。ウォルナットにメープル、古材も検討し価格や質感からアメリカ産の「ホワイトオーク」と海外でも人気のあるジャパニーズウィスキーの樽で使用される北海道産の「ミズナラ」に絞りました。
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オーダーメイドなら荒々しい表情を残して作ることも。

>杉﨑さん
2つのサンプルを実際に貼る部屋に並べて木目や色味などを確認。すると、それまで差をあまり感じなかった2つの材でも違いが出てきます。例えば、「ホワイトオーク」は少し大味に感じました。一方「ミズナラ」は、繊細で硬質な質感と色味と木目が気に入りました。かつてはオーク好きなヨーロッパの人たちのために輸出をしてただけ良材なんだと納得できましたし、また樽に使われるだけあって独特の香りも気に入りました。やはり同じ広葉樹でも、和風建築物には日本の材が合うようです。

フローリングは、“幅“や“長さ”にこだわりたい

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打ち合わせ時のメモ

>杉﨑さん
フローリングにする元の板から無駄が少ないサイズとして選んだのが、厚み15mm、幅が「75mm」と「150mm」の2種類でした。この2種類になりました。つまり、今回選んだ150mmという板幅は、元の板から取れる一番幅の広いサイズということになります。
もちろんオーダーメイドなので好きなサイズにすることも可能ですが、製材時に捨てるところが多いほど多くの板材を使わなければならなくなり、それが結果的にコストアップに繋がります。結果、採用したのは幅広の「150mm」のもの。あまり家具を置かないこの部屋ではフローリングが見えてくる範囲が多く、幅広の材で穏やかな雰囲気を作り出したいと思いました。ちなみに75mmに比べると150mmは貼る列が半分となり大分印象も変わります。

フローリングは「幅」だけでなく「長さ」にも注目すべし!

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500〜1800mmの乱尺のフローリング。幅と長さに余裕を感じる贅沢な雰囲気。

杉﨑さん宅は、フローリングの長さは「乱尺」と呼ばれるもので500〜1800mmの間で色々な長さのものが混在していました。いわゆる「定尺」と呼ばれる同じ長さだけを揃えたものに比べ、乱尺は一層の無垢感を与えてくれます。しかし、乱尺であっても30cmばかりの短いものだったり、個性の強い木目だったりすると床の主張が強くなりすぎます。そうなるとインテリアとって大切な「調和」とはかけ離れたものになるので注意が必要かもしれません。
このような理由から、検討しているフローリングの「長さ」をしっかりと確認することをおすすめします。

日本と欧米のフローリングの差

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「面取りなし」のフローリング

「面取り」とは何かというと、フローリング同士があたる角を斜めに削ることを言います。湿気の多い日本の風土では、木材の伸縮に対する木材加工というのは重要な課題です。もちろん、無垢フローリングも湿気や乾燥の影響を大きく受けます。また、古来から素足で過ごすことの多い日本人は板のちょっとした段差を不快に感じることもあり、その段差をなくすために「面取り」という加工をしてきました。
 いまやこの「面取り」は日本人にとってのフローリングの概念にもなっています。分かりやすい例で言えば、木の伸縮などが無い「クッションフロアー」や「複合フローリング」といったデザインにまで面取りが施されるほど、日本人にとってフローリングというのは「面取り」されているものなのです。
“素材のプロが聞く”!古民家リノベに学ぶ『フローリング』のこだわり方

海外のインテリアマテリアルを扱ってきた杉﨑さんは日本と欧米のフローリングの違いを聞いてみました。「面取り」をするかしないかで見た目や雰囲気に大きな差が生まれるとはどういうことでしょうか。

>杉﨑さん 
欧米の無垢フローリングはこの「面取り」をしないのがほとんどで、それによりフローリングの見え方や雰囲気が日本のフローリングとは大きく異なります。欧米では面取りをしない代わりに、フローリングを貼った後にヤスリ掛けをし、段差をなくしたフラットな状態に仕上げます。なので面取り加工の必要がないのです。現代では欧米でも面取り加工をしたフローリングをよく見かけるようになりましたが、ニューヨークやパリなどのヴィンテージマンションでは決まって面取りをしていません。
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アメリカの古い建物で使われているメープルのフローリング。隙間はできるが面が取られていない。

>杉﨑さん 
面を取っている日本のほとんどのフローリングは、床に光があたったときに「あみだくじ」のような影ができます。一方、面を取っていない欧米のフローリングは床に影ができず光が床一面に伸びるように広がります。体育館やボーリング場をイメージしていただくと良いでしょう。
まさにこの面取りなしのフローリングが、映画などで見かける海外のお部屋の雰囲気を作り出してくれます。家具や装飾はアメリカンに揃えたのになんだかキマらないなんて思っている方は、もしかすると床の「面取り」に要因があるかもしれません。
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アメリカから輸入したレッドオークのフローリングを貼った岩西氏のスタジオ。面を取ってないために影がないのが分かる。

とはいえ小さいお子さんのために「面取り」をしたという杉﨑さん。しかし、その取り方にこだわりがあったと言います。

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「糸面」で仕上げたフローリング

>杉﨑さん
本当は「面取り」をしないフローリングを作ってもらおうと考えていました。しかし、まだ小さな子供がいることもあり床で安心して遊べるようにと今回は「面取り」の仕様に。ただ、極力あの「あみだくじ」のような影は出したくないため、ほんの少しだけ削ってもらう「糸面」という削り方で調整してもらいました。結果、手触りと雰囲気が希望にかなった形となり影も最小限に収まったと思います。

“無塗装”で仕上げ、育てる楽しみ

杉﨑さんは「床は大きな家具」と考えメンテナンスを続けることで床も立派なアンティークに育っていくと言います。今回どのような塗料を使って仕上げたのでしょうか。

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塗装前

>杉﨑さん
仕上げの塗装については、事前に2つサンプルをお願いしました。それぞれの仕上げは「ウレタン」と「ワックス」。仕上げに使うのはワックスと決めてはいましたが、昔に比べて質感の良いウレタン塗料があるということで、スウェーデンの「Bona」社のウレタン塗料で塗ったサンプルをお願いしました。素材の美しさを引き出すことに焦点を置いた、世界で最も優れたウレタン塗料の一つです。メンテナンスも楽で材の質感を消すこともなく素晴らしい仕上がりでしたが、やはりフローリングを育てる楽しみのあるワックス仕上げに決めました。ワックスは言わずと知れたドイツの自然塗料「オスモ」。床専用の「フロアークリアー」のつや消しに決めました。

無塗装というあえて手間が掛かる方法を選んだ訳ですが、そのメリット・デメリットはどう感じましたか?

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塗装後

>杉﨑さん
工場で塗装してもらうこともできたのですが、今回は無塗装でお願いして、貼った後に家族でワックスを塗りました。塗料と塗装代で¥3,000/平米ぐらい掛かる予定だったのでだいぶ節約できたかと思います。ただ、後から塗るのは一日がかりで大変だということは否めません。
既製品では「UVコーティング」や「ガラスコーティング」など傷が付きにくく長い間キレイな状態を保ち、日々のメンテナンスが楽になる塗装が多いかと思います。それとは真逆に、うちの床はよく使い込む生活動線などは経年変化のスピードも早く出てくるでしょうし、色味なども他の場所と変わってくるはずです。おそらく傷も沢山つくと思います。でも、これが我が家のクセのようなものになって愛着が湧くものに変わっていくのかと思います。次のメンテナンスまでにどのようにフローリングが経年変化していくのかとても楽しみです。
ちなみに杉﨑さんの奥様は、こちらのご自宅で「タイ古式マッサージとヨガのレッスン」を提供する「ひなのて」というサロンを運営しています。マッサージを受けた後にフローリングを見学させてもらうことも可能だそうですので。気になる方はぜひ!
instagram: https://www.instagram.com/hinatanote.yoga.massage/
HP: http://hinatanote.com/

まとめ

いかがでしたでしょうか。無垢フローリングの導入を考えている方には、新たな気付きを与えてくれるものになったかと思います。今回はフローリングのオーダーメイドという少しハードルの高いこだわりでした。住む者と共に住まいも一緒に育ち老いていくという、経年変化に抗わない杉﨑さん家族の哲学がフローリングに現れていたような気がしました。もちろん、既製品でも「面取り」の効果や、フローリングの「長さ」。「無塗装」で育てるといった楽しみ方には出会えると思いますので、それは是非探してみてください。
最後に「無垢フローリング」が最も優れているわけではなく、複合フローリングやユニフローリングなどそれぞれの価格面や機能など持ち味が異なり、ご自身の状況や環境にあったものを慎重に検討して導入するのが一番だと話してくれました。理想の住まいを作るには「こだわり」は持っても固執せず柔軟性を忘れないことが大事なのでしょう。

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