DIYの大先輩に密着! -GELCHOPのウラガワ-
多方面で活躍する3D造形ユニット“GELCHOP”。そのモノづくりの裏側を見てみたい!その思いを伝えたら、予想だにしない展開が!
公開日 2016.09.12
更新日 2022.01.07
GELCHOPさん、今作りたいものは何ですか?
数々の人気ショップのインテリアデザインやパブリックスペースのオブジェ製作など多岐に渡って活躍する3D造形ユニット“GELCHOP(ゲルチョップ)”。新オフィスの家具をオーダーするほど、DIYer(s)が最も注目し、敬愛するクリエイターだ。
彼らのプロダクトや空間は、他の何とも似ていない。洗練、エッジィ、ポップ、モダン、温かみ、ユーモア、毒…一言では到底説明のつかない、その無二のクリエイティブは、どうやって生まれてくるのか。
その過程を垣間見たくて、DIYer(s)編集部は唐突に彼らを尋ねて思いをぶつけた。
「何か一緒にDIYしませんか?」。
斬新で遊び心に満ちたプロダクトが人気のアパレルブランド「sacai」の什器も彼らの手によるもの。
「無印良品 有楽町 ATELIER MUJI 『観察と工作』展 モジとモノが交錯したら?」の展示作品の一部。見慣れたはずの無印良品の商品がユーモアと毒をまとって「日常って何?」と問いかけてくる。
DIYer(s)編集部のストレージ。一般的なオフィス家具をGELCHOP節全開でアレンジしたもの。気分がアガります。
え、電気?
“今、仕事関係なくDIYしてみたいもの”を尋ねたところ、帰ってきた答えがなんとも彼ららしかった。
「自分で作った電気でカップラーメンを作って食べたい」
「自転車にダイナモ(※)をたくさん付けたらいけるんじゃない?」
「いいね、いいね!移動しながら湯が沸かせたら、出かけた先でカップラーメン食えるね!」
期待をはるかに上回る、いきなりのこの展開に戸惑いとワクワクがこみ上げる。いやでも、一体何が起きるんだ、この企画!?
※自転車のタイヤとの摩擦で回転し発電燈火する装置。
直筆のイメージ図。先輩、本気ですか!?
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そんな編集部の複雑な胸の内はさておき、さっそく設計図の作成に取り掛かる彼ら。やがて、設計プランが出来上がった。
本気でした…!
あれよあれよという間に、組み立て工程に突入。用意したのはこちら。
電気ケトル。
ダイナモ。ママチャリに付いているアレです。
電圧のDC(直流)をAC(交流)に変換する「インバーター」という機器。発電した電気を、家電(ケトル)に対応する電気に変える役割を果たすもの。
電動ドリルとダイナモを接続して回転させ、ダイナモの発電能力を計測中。
テストを終え、さっそくケトルに取り付けていざ発電!というところで、問題発生。電気ケトルを使用するために必要な電気量を算出したところ、単純計算でダイナモが400個程度(!)必要なことが判明。
前後のタイヤに400個のダイナモを搭載して疾走する自転車を想像してみてください。怪しすぎます。というか、物理的に面積が足りませんね…。
ということで、作戦変更。
走りながら湯を沸かすのは次の段階へとっておき、まずは自転車を止めた状態での発電にトライしてみることに。こちらの方法は成功事例もあり、ネットなど各種メディアで目にしたことがある人もいるはず。
新プラン。
新たに登場した「オルタネーター」という機器。自動車のエンジン駆動で電気を発生させる発電装置ということで、ダイナモより強そう。
さっそく自転車にオルタネーターを設置し、第2実験。結果はダイナモよりはるかに良く、60Wの電球を点灯させることに成功!
ただし、必死の形相でこいで、やっと。1200W分って、どんだけこげばいいのか…。
実験しては改良、の繰り返し。
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“無理矢理の重ね塗り”の先に。
結果。
自転車で発電はできたけど、カップラーメンを食べるという最終ゴールには、今現在も至っていない。ただ、「彼らのプロダクトが生まれる背景を覗いてみたい」という、我々の当初の目的は十二分に果たせたような気がする。
「1人で漕ぐのが厳しければ2人でも3人でも、やたらと何人も乗れる長〜い自転車作ったら?」
「巨大な車輪と小さい車輪を組み合わせるとかどうなの?クランクが凄い長いとか、みたこともないどでかいギアを装着するとか…」
「すばらしいお尻の写真を前にぶら下げたら、早く走れるんじゃない?(笑)まずは体づくりかぁ」
「ていうか、1回の走行で難しいなら、バッテリーに電気を貯金するもよし、ソーラーでも風力でも発電できるものなら何でも活用すればいい。貯金した電気で電動アシストしてチョンボしちゃうともかありかな?」
「いや、そもそも1200Wが厳しいなら小型の熱線ヒーターに変更でしょ。熱線ヒーターを改造することだって出来るし」
諦める気配のない二人。
あれがダメならこうしてみよう、を繰り返すうち、「自転車で湯を沸かして、出かけた先でカップラーメンを食う」という奇想天外な思いつきは、いつの間にか我々にとっても、なんとかたどり着きたいゴール、つまり“起こりうるかもしれない現実”に変わっていた。
「今回やりたかったのは、『なんかいける気がする』っていうくだらない思いつきを、無理やりな発想で答えに向かわせ、無駄に努力して、強引に答えを探してみること。無理矢理の重ね塗りで、見たことのない機械が出来上がっていく様は、失敗しても面白いんじゃないかなって」とモリカワさん。
彼らのクリエーションに接したとき、実にいろいろなものを一度に感じるのは、そうした“重ね塗り”が、常に行われているからかもしれない。
彼らは言う。
「打開策は、きっとある!」
何かを試行錯誤して手に入れるまでの道程は、もしかしたら手に入ること自体よりワクワクすることで、DIYの決定的な魅力だと改めて教えられたような出来事だった。
そして、こんな風に世の中には新しいものが生まれ、世界は変わっていくのかもしれない-なんて大げさだろうか?
彼らの愉快な挑戦から目が離せない。
PROFILE
GELCHOP
モリカワ リョウタ氏、オザワ テツヤ氏、タカハシ リョウヘイ氏の、3人の“工作好き”によって2000年に結成された3D造形グループ(取材当時はモリカワ氏、オザワ氏の2人組だった)。ハンドワークで、イメージと現実の世界をつなぐ、立体というカテゴリーのもと、有名モードブランドの什器・内装制作や、パブリックスペースのアートワーク、オリジナルプロダクトなど活動は多岐に渡る。
WRITTEN BY
Japan
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