Snow Peak デザイナー山井梨沙 インタビュー

昨年9月Snow Peak HEAD QUARTERS MEDIA TOURに参加した理由はSnow Peakのギアを実際に体験することと、本社の取材、そしてもうひとつは、Snow Peakアパレル部門のブランドマネージャーである山井梨沙さんのお話を聞くことでした。Snow Peakの創設者である幸雄氏を祖父に持ち、現社長、太氏を父に持つ、梨沙さんは、幼いころから「本当に欲しいモノは自分でつくる。ないものはつくるDIYの精神」を植え付けられてきたDIYの申し子でもあります。 そんな梨沙さんにSnow Peak Apparelのこと、そしてDIYに関してお話を伺ってきました。

公開日 2016.02.19

更新日 2022.01.07

Snow Peak デザイナー山井梨沙  インタビュー

――山井さんはどういった経緯でアパレル部門のデザイナーになったんですか?

「元々、Snow Peakではなくではなく、違うアパレルのデザイナーになりたくて上京して、服飾の専門学校に通いました。そこを卒業して、コレクションブランドなどで働いていましたが、色々と思うところがあり、2012年にSnow Peakに入社して、2014FWからアパレル部門の立ち上げを手伝うようになったんですよ」。

 

――Snpw Ppeak Apparelは山井さんご自身が立ち上げたいと思ってはじめたんですか?

「私自身、正直、東京に出て、服飾のスキルを学び、実際にファッション業界で働いてみるまでは、一度もSnpw Ppeakに入りたいと思うことはなかったんです(笑)。ただ、自分自身が、大好きなファッション業界で働いてみて、少し違和感を感じることが多くなってきたんです。というのも、声に出すと語弊があるかもしれませんが、ファッションは音楽やアートなどカルチャーをかいつまんで洋服に落とし込むものとして捉えていたのですが実は自分自身、ファッションじゃなくてその先にあるカルチャー(文化)が好きなんじゃないかと気づくタイミングがあって。そこで自分がカルチャーを作ることができるような人間になりたいなと思うようになったんです。考えてみると自分には小さい頃から慣れ親しみ、自分の一番近くにあったものがアウトドアだった。それからはカルチャーに根付いたモノづくりをしたいなと思い、自分でSnpw Ppeakに履歴書を出し、他の人と一緒に面接を受けて、入社したんです(笑)。」

 

 
――こちらも乱暴な言い方ですが、コレクションブランドとなると、やはり見た目のデザインが重視されたりしがち。これまで慣れ親しんできたアウトドアでは機能やフィット感を重視することが多かった。そういった面で、戸惑いを感じたのかもしれませんね。
 

「もしかしたらそうかもしれません。逆にファッションが自分にフィットしてなかったと思うぐらいの違和感がありましたね。ラグジュアリーな体験価値や視覚的な美意識だったりはファッションから得られるものだと思います。もちろんそれが悪い事ではないのですが、クリエイティブなモノを作りだしていく中で、理由と直結しない、なんとなく雰囲気で片づけられてしまうものが、自分自身にはフィットしなかった。逆に現在のようにアウトドアに近いウェアを作っているほうが、こういった機能に対して、こういった素材を使うとか、しっかりとした裏付けがある。自分の中で整理しながら、なんのために洋服を作るのかが明確な中でモノづくりができるので、そこが自分にはすごく合っていると思いました」

 

――小さい頃からそばに合ったSnow Peakというブランド。そのアパレル部門に携わる上で、心境の変化などはありましたか?

「自分が20代後半でSnow Peakに入社して、現社長の父が築き上げてきたSnow Peakいう文化に付いてきてくれたお客様の年齢層が40~50代が中心で、見渡してみたら自分と同世代の人間に出会うことが少なかったんです。最初は既存のファンでいてくれるお客様に向けて、モノづくりをしなければいけないという意識も持って作っていたんですが、そこも自分の中ですっきりしない部分ではあって。逆に自分と同世代の人たちにもSnow PeakのDNAを伝えていかなければならないと考えるようになって、吹っ切れましたね。だからこそ日本の職人さんの手仕事から生まれたモノや、日本のモノ作りのクオリティの高さを、新しいお客様に伝えていければ……と思いながら、今は試行錯誤していますね。ギアとアパレル、モノは違いますがDNAとして受け継がれているものはあると思うので、是非チェックして欲しいですね」。

 

 

――Snow Peak Apparelのデザインのコンセプトを教えて下さい。

「全体のコンセプトはhome⇄tentです。Snow Peakののお客様は料理をしたり、テントを張ったり、ライフスタイルの一部としてアウトドアやキャンプを楽しんでいますが、普段は街に住んでいて、働いて、自分の生活を持っている人がもちろん多いと思います。自分がSnow Peakに入って、改めてアウトドアのウェアって何だろうと考え直したときに、街と極端に切り離されたアパレルが多いなと感じたんです。いまでこそ、バブアーやウールリッチやフィルソンなどアメカジとして取り入れられるアパレルもありますが、やはりテクニカルなウェアになればなるほど、街ではオーバースペックすぎます。実際にアウトドアでもオーバースペックかもしれませんが、より自然に街とアウトドアを行き来できるようなものになれば、今、アウトドアに興味がない人でも、気軽にアウトドアに行けるようになるんじゃないかと思って設定したコンセプトです。

 

 

キャンプやアウトドアってどちらかというとトレッキングやロッククライミングといったアクティブな要素よりも、家族や友達とゆっくり過ごすことが多いですよね。街の中で一番リラックスできる“home”とキャンプ場で一番くつろげる場所である“tent”を繋いで、本当に心地よく、街と自然を行き来できる服というのを目指したかったんです。だからリラックスできるように肌触りの良い素材や、快適性のあるディテールにもこだわって作っているんですよ」。

 

――山井さんがデザインをされるうえでインスパイアされるものってありますか?

「結構、Snow Peak Apparelは配色が男っぽいといわれることが多いのですが、デザインをするうえで色から決めていくことも多いですね。毎回キャンプに行くたびに思うんですが、自然のフィールドに行けば行くほど、風景などの色彩が劇的に変化する。それが毎回、自分の中でワクワクするというか、自分の中で癒しであったり、インスピレーション源であったりします。毎回、企画のクリエイティブをスタートさせる前に、自然に残っている色を思い出すことが多いですね。もちろん新潟特有の晴れ間の少ない曇り空をインスパイアさせる、グレーのグラデーションンなんかを使うこともありますね」。

 

 

――他のアウトドアブランドではかなりヴィヴィットな色を使うことも多いですが、Snow Peak Apparelではダークトーンなどシブめの色合いが多い気がします。

「もちろんアウトドアウェアがヴィヴィットな配色である理由もあるんです。例えば、遭難した時にすぐ見つけてもらえるとか。ただ、Snow Peak Apparelはあくまでキャンプなどゆっくりリラックスして過ごすためのウェアなので、そんなに危険なシーンはないですし、街でもその自然をインスパイアさせる色合いが楽しめるということも、落ち着いた色合いが多い理由のひとつですね」。

 

――今季のシーズンテーマなどはありますか?

「実はシーズンごとにテーマは設けていなくて、その時々で欲しいモノをアップデートするようにしていきたいと思っています。2015AWからフィールドで必要な機能性を確保した都会的なデザインの“TRANSIT”、キャンプシーンで必要なポケットなどを装備したオーセンティックなデザインの“CAMP”、天然素材などを使い心地よさを重視した“DWELL”という3つのカテゴリーに分けています」。

 

 

――今後やっていきたいことは?

「2016SSコレクションで自分のやりたいことが明確に出来てきました。Snow Peakはじまりも地元である新潟燕三条の金属加工産業など地場産業に寄り添いながら発展してきました。各地で発展している地場産業を色々まわって旅をしながら、各地で手仕事をされている職人さんとお話すると、このままでは日本でモノを生産できなくなってしまうという危機感を覚えるほど、工場がどんどん潰れていたり、生産の拠点が中国に移動したりしています。せっかく良い地場産業があるのに、下の世代にその技術が継承されていないのが現状。私も日本で育ってきて、デザイナーとしてやっていく上で日本で生産が出来なくなるのも嫌なので、実際に手仕事をされている職人さんにフィーチャーしながら、若い世代にその地場産業や職人技を知ってもらえればいいかなと考えています。もしかしたら、オートクチュールに近い作り方になってしまうかもしれませんが、日本のアウトドアメーカーだからこそできる、新しいカテゴリーを作っていきたいですね。やはり感性の部分で一番伝わるのは日本人同士だと思うので」。

 

 

――DIYer(s)もその名の通り“DIY”というテーマで面白いモノづくりを紹介していますが、山井さんはどんなDIYに興味がありますか?

「小さい頃からの話ですが、服のリメイクはしていましたね。デニムパンツを解体して、スカートにしたり、鞄にしたり。私自身、洋服に偏ったところでは、かなりDIYしていると思いますよ。職人の手仕事に話にも繋がるんですが、最近、“刺し子”をはじめましたね。自分で図面を考えながらやっていますよ。やっぱり、昔の人の知恵で生まれたものなので、実際やってみるとよくできているなぁと思いますね。意匠性もあるし、強度の問題はアウトドアとも繋がってくるところもあるので。今は作らなくても、何でも手に入っちゃう時代なので、なんでもあるからこそ、自分のオリジナルを作ってしまうという側面もあって、DIYも面白いですよね」。

 

――DIYは自ら作ることが主となるので、山井さんが大事にしていきたい“手仕事”という部分も自分で体験できますよね。

「そうですね。今って、色々な商品が並んでいて、価格なのか、色なのか、デザインなのかが選択基準になっていると思います。その商品は自分で実際に作れるものなのか、作る工程の難しさを体験しないで、モノを選んでしまっているので、そういったモノづくりの難しさを実際に体験することで、モノの価値や価格が分かっていくので、そういった状況を伝えてもらうためにも、DIYer(s)さんには是非、DIYの楽しさを伝えていってもらいたいですね」。

 

 

山井さんのお話、いかがでしたでしょうか。現在、工場など生産の中心が海外に移行しつつあり、日本のモノ作りのクオリティも下がっているという状況を肌で感じた山井さん。モノづくり大国、日本の根幹を揺るがす危機と表現していました。また伝統工芸を伝承してきた日本の職人さんの後継者がいないことも大きな問題ととらえているようです。若い世代がDIYを積極的に行うことで、モノづくりの楽しさを体感し、日本の職人が脈々と受け継いできた伝統工芸にも興味を持ってもらえるように変わっていくと、モノづくり大国、日本がまた世界で評価されるようになるでしょう。お話を聞いて、DIYを続けていくことは意味のあることだと再確認しました。DIYer(s)では、これからも面白いDIYをどんどん伝えていきます!

 

◼︎Profile

山井梨沙さん

Snow Peakアパレル ブランドマネージャー

Snow Peak創立者の祖父・幸雄氏、現社長の父・太氏を持つ3世代目。幼いころから当たり前のようにキャンプや釣りなどのアウトドアに触れて育ち、ないものは自分で作るDIY精神を植え付けられてきた。2014FWからSnow Peakのアパレル事業を立ち上げ、現在はアパレル部門を束ねているブランドマネージャーを務める。

 

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