DIYer・島津冬樹の「ご当地ダンボール」をめぐる旅 in 香川県[やまくに]
公開日 2016.08.01
更新日 2022.01.07
「ぼくはダンボールによって人や場所と出会っています。ダンボールの視点から、日本中、世界中の文化を眺めてみたいんです」そう語るのは、使用済みのダンボールを再利用する形で財布やクラッチバックなどの作品を制作しているアーティスト、島津冬樹さん。
これまで、
「Carton」アーティスト・島津冬樹が語る、ダンボールデザインの魅力
と、2回に渡りフィーチャーしてきました。
今回は、島津さんの香川県でのワークショップ中に生まれた「ご当地ダンボール(その地域にしかないダンボール)」との出会いから、明治20年創業のいりこブランド「やまくに」を訪問の模様をレポート。ダンボールから日本を眺める旅のはじまり、はじまり。
ダンボールで生まれた出会いから、突然の訪問へ
きっかけは香川県高松市のギャラリー・TOYTOYTOY(トイトイトイ)で開催された展示+ワークショップ「CARTON SUPER MARKET」でのこと。「好きなダンボールをひとつもってくること」という事前の周知があったため、参加者の方は皆思い思いのダンボールを手にギャラリーへ訪れていました。その中の一人が、いりこブランド「やまくに」の代表・山下加奈代さんだったのです。
山下さんが持ってきたダンボール。「伊吹いりこ」とはこの地域におけるいりこの定番ブランドで、由来は観音寺市よりもさらに西の沖合にある「伊吹島」で獲れることから。穏やかな気候が雑味のない、おいしいいりこを育むそう。
当然ながら、ワークショップに参加している時には山下さんが「やまくに」の代表であることは知りません。島津さんの直感で「この人のダンボールが気になる」ということで、やや暴走してしまった島津さんがこんなお願いを。「失礼ですが、とても素敵なダンボールをお持ちなので、今から工場にお邪魔させてくれませんか…?」。すると、山下さんは顔に「?」マークを浮かべながらも、「いいですよ」と突然の無茶振りを快く受け入れてくれました。さて、いったいどんな人たちが、どんな場所でこのダンボールを使っているのでしょうか?
再び、いりこを食卓に
山下さんの事務所に到着すると、山下さんのご両親が出迎えてくれました。訪れた時にはご家族でこの机を囲んで梱包作業をしているところでした。
山下さんにお話を伺うと、DIYにつながるストーリーが見えてきました。もともと、いりこは香川県でもうどんのだしの定番でしたが、インスタントのだしが徐々に主流になりるにつれて需要が減り、「やまくに」の経営は危機的状況に。台所の主役からすっかり離れてしまったいりこを、どうリブランディングするのか…?悩める山下さんを救ったのが、料理研究家の辰巳芳子さんとの出会いでした。ある時、辰巳さんが「やまくに」のいりこを使っていることを知った山下さんは、辰巳さんに連絡。すぐに辰巳さんの意見をもとに試作を重ねて、代表作「潮の宝」を完成させたのでした。
笑顔で語る山下さん。
しかし、そこでとどまらないのが山下さん。「今、若い人でいりこを使ってだしをとる人は少ないですよね。だから単純にいりこを作っているだけじゃなくて、若い人にもっといりこを身近に感じてもらう商品を作りたいと思っていました。辰巳流いりこの試作を重ねる中で、何度も失敗したのですが、その中で生まれたのが『パリパリ焙煎いりこ』でした。これはスナック感覚で食べてもらえるよう味のパターンをつくるなど、若い人にどうすれば受け入れられるかを考えて作ったものです」。
「パリパリ焙煎いりこ」は「プレーン」「ぶどう山椒」「本鷹一味」「にんじん」の4つのフレーバーがある。化学調味料無添加の自然食品なのでからだにも優しい。各500円+税/40g。
「やまくに」では今も昔ながらの手作業で選別。頭と内臓を丁寧すぎるほどしっかりと取り除くため、生臭さを感じさせない。さらにその後弱火でじっくりと焙煎することで透き通ったうま味だけを残す。職人による手間暇かけた作業が、おいしさの裏付けだ。
(工場にある数々のダンボールを持ちながら)話を聞いていた島津さんは、「自営業の方には『自分たちの手でなんとする』というDIY精神あふれる方が多いと思っているのですが、山下さんのように100年以上続くブランドを再生させる、という規模を個人でできる方がいるなんて、すごいですね…」と感銘を受けていました。
最後に、突然おじゃまさせてくれた上に、たくさんの素敵なお話を聞かせてくれたお礼として、島津さんがダンボールで「伊吹いりこ」のダンボールを使った名刺入れをサプライズでプレゼントしました。
「このケースで名刺を渡せば、絶対いい結果が生まれます」となぜか自信満々で渡す島津さん。
ダンボールアーティストであり、DIYerでもある島津さんの出会いのキーアイテムであるダンボールから繋がった旅。そこには代々続く老舗ブランドを再び活気づけた、山下さんの創意工夫のストーリーがあったのでした。
WRITTEN BY
Japan
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