UPCYCLE OUR LIFE vol.1 -IDÉEが本気で考えた、モノづくりと暮らし方。-
ライフスタイルショップ「IDÉE」が取り組むアップサイクルをテーマにしたプロジェクト「IDÉE GARAGE」がこのたび、本格始動。そこで、IDÉEがこれまでに行ってきたアップサイクルの歴史と、現在進行中のプロジェクトについて取材しました。企画、デザイン、素材調達、制作…それぞれの立場から考えた、モノづくりの原点とは? Text_瀬尾麻美
公開日 2016.11.07
更新日 2022.01.07
DIYer(s)の大切にしているテーマの一つでもある “アップサイクル”。その定義をご存じでしょうか。新型の自転車? いいえ、違います。リサイクル? うーん、惜しい!
アップサイクルとは、古くなったものや使わなくなったものに新たな価値をプラスして再利用する方法のこと。単なるリサイクルやリメイクと違い、素材と素材の組み合わせやデザインの力によって、元の製品よりも「価値の高いモノ」を生み出す、新たなモノづくりの在り方の一つなのです。
そんな今話題のアップサイクルに早くから注目し、「愛着のあるモノと長く付き合う暮らし」を提案してきたのが、ライフスタイルショップ「IDÉE」です。今回、IDÉEが取り組むアップサイクルとDIYをコンセプトにしたプロジェクト「IDÉE GARAGE」の活動をより深く知るため、プロジェクトに携わるチームの皆様にお話を伺いました。
IDÉE GARAGE プロジェクトメンバーのみなさん。手前左から、水野亜衣さん、中津和敬さん、磯野歩さん、奥側左から、秋田真吾さん、野元あゆみさん。全員、普段はそれぞれ別の業務を担当しながら、このプロジェクトに関わっているそう。
インハウスのデザイナーであり企画を担当する磯野さんは、3年前からIDÉE GARAGEに携わる唯一のメンバー。このプロジェクトの発起人でもある。
-そもそも、IDÉE GARAGEをはじめたきっかけは?
磯野 よくある話だと思うんですけど、小さい頃、近所にモノが壊れたら何でも直してくれるおじさんっていたじゃないですか。僕の父もそうで、壊れたものは必ず直して、ないものは一緒に作ってくれていました。大人になって思ったのが、やっぱりそういうことが暮らしの根底にあるんじゃないかということ。今の消費社会では、モノを買っても、流行が終われば捨ててしまうのが当たり前になっているけれど、そもそも暮らすということは、モノを大切に使って、壊れたら自分の手で直して、時には価値を変えて違うものにすることなのかもしれない。そのことを僕自身がライフスタイルショップで発信していけたらと思い、このプロジェクトを企画したんです。
-具体的には、これまでどんな活動をされてきたのですか?
磯野 2013年の夏に藤沢にある「無印良品」の4階のスペースを借りて、期間限定で「IDÉE GARAGE」の店舗をオープンしました。アップサイクルを切り口に、インテリアから家具、アパレル、ジュエリーまで幅広いジャンルのクリエイターに参加してもらい、実際にその場で商品を作ってもらったり、ワークショップを開くなど、お客さんが実際に手を動かせるような体験型ショップを目指しました。その後、大きな活動はなかったのですが単発でポップアップストアを開くなど、少しずつ活動は継続してきました。
2013年にオープンした「IDÉE GARAGE」は、アップサイクルやDIY、リペアをテーマにした期間限定ショップ。来場客が利用できる工作室を開設したり、クリエイターが週単位で公開製作を行う「アトリエリレー」を実施するなど、体験・参加型の企画で人気を集めました。
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-そして今回、新たなプロジェクトが始動したということで。
磯野 はい。今までポップアップという形を取っていたIDÉE GARAGEですが、より多くの人に知っていただけるよう、新たにメンバーを編成して再始動することになりました。
中津 それが今日集まった5人です。この他にも、デザイナーが2名います。
-では現在の活動について、教えてください。
水野 まずはお客様に日常的にアップサイクルに触れてもらうため、ここ、六本木の「IDÉE SHOP Midtown」に併設されているカフェ「IDÉE CAFE PARC」のリニューアルに取りかかっています。すでに9月に、第一段階として一部の家具の入れ替えを行いました。新たに投入されたのは、廃材を再利用して作った椅子やテーブル、ライトなど。リニューアルは段階的に行って、年末までにはすべての椅子とテーブルをアップサイクルする予定です。
-今、みなさんが座られている椅子やテーブルがそうですね?
中津 はい。テーブルは特に用途から考え方を変え、10人ほどが一度に使えるサイズにすることで、知らない人同士や大勢でシェアできるようになりました。
秋田 天板には紙パックをリサイクルして作られるテトミックスボードを使っているので、よく見ると銀色の箔や文字が判別できるはずです。
広々としたテラス席に置かれた大テーブルはアップサイクルによる作品。オリーブの樹が植えられた中央のポリタンクも、もともとは産廃品だったそう。
紙パックを粉砕して樹脂で固めた、テトミックスボードの天板。目を凝らすと、パッケージに印字された見慣れた文字が見える。
テーブルのまわりに配された20脚の椅子は、IDÉEのデザイナーと3組のDIYクリエイターがそれぞれデザインを担当したもの。
秋田さん製作の、「Golfer Chair」(上)と「(Up)Cycling Chair」(下)。自転車のハンドルを椅子に留めているのは、DIYでもよく使われる結束バンド(!)。すべての作品のデザインから製作までを自らの手で行ったそう。
デザイナー野元さんの作品「Weave」は、使用されなかったシートベルトを座面に編み込んだベンチ。「“人の体を支える”という、もともとの役割を果たせなかったシートベルトを、より身近な家具にして蘇らせました」(野元さん)
廃棄された体育館用照明ガードをスツールの脚として再利用し、座面裏に懐中電灯を取りつけた「Light Stool」は磯野さんの作品。思わず微笑んでしまうユニークなデザインの数々に出会えるのも、アップサイクルならではの楽しみ。
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-素朴な疑問なのですが、アップサイクルの家具を作る時は、先に使用する素材を決めてからデザインに取り掛かるのでしょうか?
磯野 いい質問ですね(笑)。例えるなら、献立を考えてから料理を作るのか、スーパーに行って材料を見てから献立を考えるのか、ということになりますが、実は両方のパターンがあります。一概に「これを作りたい」と思って産廃業者さんのところに探しに行くわけでもありませんし、その場で見立てて作るということもあるんですよ。その点も、一つの醍醐味だと思います。
-今回はIDÉEのデザイナー以外に、3組のクリエイターにも椅子のデザインを依頼されているという話ですが。
中津 Bouillonさん、狩野佑真さん、GELCHOPさんの3組です。彼らとは物を再生させるという意義で共鳴することができたので、今回お願いさせていただきました。
磯野 全員が手を動かしてモノを作れるのも大きかったですね。彼らの作った椅子を見てもそれぞれの個性の違いが楽しめると思います。
-今後は、デザインした家具の中から、実際に商品化されるものも出てくるのでしょうか?
水野 そうですね。椅子に限らず、小さめの家具やちょっとした小物に至るまで、安全性をチェックしながら量産化の体制を整えていきたいと思っています。
磯野 この活動を一時のムーブメントに終わらせないためには、何より一般のお客様にも手に取っていただき、アップサイクルを身近に感じてもらうことが大事。今後も少しずつユニークな企画を立てていく予定なので、ご期待ください。
古いテニスラケットのガット部分にミラーを貼り込んだアップサイクルの姿見は、商品化候補アイテムの一つ。他に卓球のラケットなどのバージョンもあるそう。
「IDÉE CAFE PARC」の天井から吊り下げられた照明も、よく見るとさまざまなキッチンツールで作られたもの。他にも、店内にはアップサイクルによるユニークなインテリアの数々が。この空間にいるだけで、感性が刺激されそう。
次回からは、IDÉE GARAGEに参加するクリエイターさん紹介を。初回は、Bouillonさんのインタビューをお届けします!
INFORMATION
IDÉE SHOP Midtown
東京都港区赤坂9-7-4 D-0316 東京ミッドタウン Galleria 3F
11:00~21:00
Tel.03-5413-3455
WRITTEN BY
Japan
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